第4走者・ケンブリッジ 歴史に残る100Mは「一番、短かった」

[ 2016年8月21日 05:30 ]

日本のアンカー・ケンブリッジ飛鳥(左から2人目)はジャマイカのボルト(右端)に次いで2位でゴールイン
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リオデジャネイロ五輪陸上・男子400mリレー決勝

(8月19日)
 ジャマイカ人の父を持ち、ジャマイカで生を受けたケンブリッジの眼前に、夢のような景色が広がっていた。第3走者の桐生がジャマイカのアシュミードと競り合いながら、コーナーを回ってくる。「きたきたきたきた!って思いましたね」。

 6月の日本選手権で初優勝するなど、今季急成長した23歳が、表彰台に向かってスタートを切る。ジャマイカのアンカー・ボルトより、わずかに早くバトンが渡った。

 横にいるのは、憧れでもあり目標の世界最速男だ。ほんのわずかだったかもしれないが、ケンブリッジは確かに抵抗した。「最初はそれほどグンッていかれなかった」。ただ、陸上界の巨星には、特殊な引力が働くのか。中盤、ケンブリッジがボルトの方に寄り、バトンが当たってしまった。「バランスを崩して、やべーなと思った。力みにはならなかったけど、うまく加速に乗れなかったかな」。ボルトに突き放され、背後には米国とカナダが迫っていた。

 あふれる才能がありながら、故障が多かった。母校・東京高の大村総監督に「おまえはこんなもんじゃない。桐生より強いと思って送り出したんだ。これで終わるつもりか」と叱咤(しった)され、泣いたこともある。悔し涙を力に変え、ケガをしない体をつくり、初めて世界大会で日の丸を背負った。「3人が完璧な位置で持ってきてくれたので、絶対にメダルを獲る気持ちで走った」。仲間のためにも、表彰台は絶対に譲れなかった。

 歴史を変えるゴールが近づく。ケンブリッジが、上体を突きだしてフィニッシュ。「確信はなかったけど、2位に入ったかな」。かつてない興奮に、感覚はゆがんだ。「今までの100メートルで一番、短かった」。桐生が、山県が、飯塚がケンブリッジの元に駆け寄ってくる。「チャンスあるから、絶対にメダルを獲って帰ろう!」。レース前の4人の誓いは、現実になった。

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