手本にしたい 唯一無二の五輪王者・内村の情熱と真摯な姿勢

[ 2016年8月15日 16:14 ]

個人総合でも金メダルを獲得した内村

 【立花泰則の目】白井は、F難度のシライ2(前方伸身宙返り3回ひねり)の着地で腰が大きく沈み、足が動いた。これが0・3点以上の減点。さらに後方伸身宙返り2回半ひねり(D難度)から前方伸身宙返り2回半ひねり(E難度)の連続技でも着地が大きく2歩前に出て、1歩につき0・3点ずつの減点、さらに着地姿勢で減点された。

 シライ2の前にG難度のリ・ジョンソンの着地をまとめていた。次も着地を含めて技を完全に制御して止めようとする意識が強すぎたのではないかと思う。世界で誰もできない高難度の技だけに、繊細な技術の制御が要求される。決まるか、崩れるかは紙一重で、今回は着地部分を少しだけ先取りしすぎて制御し切れなかった。必ずしも実力通りに順位が出ない、種目別の難しさと怖さといえる。

 内村は、最初のE難度~C難度の連続技(後方伸身宙返り3回半ひねり~前方伸身宙返り1回半ひねり)で着地が乱れ、さらに0・3点のライン減点もあった。棄権もよぎったという腰の状態で、ミスはこの着地だけ。メダルを狙っていた中で悔しいと思う。

 ただ、予選、団体決勝、個人総合で18種目をこなしたオールラウンダーの内村が、スペシャリストが集う種目別決勝で、高難度の演技構成をそろえ、これだけの実施をするだけでも驚異的だ。内村の武器でもある床運動の質の高さと底力がうかがえる。

 満身創痍(そうい)の中、数日で腰の状態も気持ちも整えて、種目別決勝で勝負に挑んだ内村の姿勢は、次世代の選手への大きなメッセージとなった。妥協のない練習の積み重ね。絶対に負けないという強い意志と精神力。誰も到達できない領域まで技術を探求し続けることで生まれる究極の美しい技さばき。世界中の選手から尊敬され、いつかは超えたいと目標にされる唯一無二の五輪王者が、積み重ねてきた体操への情熱と真摯(しんし)な姿勢を、お手本としてもらいたい。(2012年ロンドン五輪男子日本代表監督)

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2016年8月15日のニュース