田知本、金! 今は胸を張って言える「柔道が好き」

[ 2016年8月12日 05:30 ]

リオ五輪<柔道・女子70キロ 決勝>金メダルを披露する田知本

リオデジャネイロ五輪柔道・女子70キロ級決勝

(8月10日)
 女子70キロ級で前回ロンドン五輪7位の田知本遥(26=ALSOK)が決勝でアルベアル(コロンビア)に1本勝ちし、今大会の日本の柔道女子で最初の金メダルを手にした。同階級での優勝は、08年北京五輪で2連覇を果たした上野雅恵以来。日本の男女が同じ日に五輪で優勝するのは04年アテネ五輪の男子100キロ超級の鈴木桂治、女子78キロ超級の塚田真希以来で、挫折を乗り越えた新女王が日本のメダルラッシュに勢いを付けた。

 何かが少しでも掛け違っていたら、金メダルはおろか、この畳の上に立つことすらなかったかもしれない。相手の背負い投げを返して技ありを奪い「もう絶対に離さない」とそのまま必死に抑え込んだ。一本。静かに、ゆっくりと顔を上げた田知本に涙はなかった。

 「湧き出てくるものの方が大きくて。今までのことが走馬灯のようにこみ上げてきた」

 メダルに届かなかったロンドン五輪後、柔道をやめようと思った。「頑張りたいし、変わりたいけど、頑張り方が分からなくてもがいていた」。悩む田知本は関係者から英国行きを勧められた。

 14年夏の1カ月、英国で一人暮らししながら柔道クラブに足を運んだ。そこにいたのは、仕事をしながらでも毎日道場に通い、笑顔で柔道を楽しむ人たち。「みんな本当に柔道が好きなんだ」と感じた。その年の11月の講道館杯、「負けたら引退」と決めて出た大会で優勝し、2度目の五輪を目指す覚悟を固めた。

 だが、その道も一度は自分自身のミスで閉ざしかけた。昨年2月にドーピング違反の恐れがある市販の風邪薬を服用し、ドイツでの国際大会を欠場。全日本柔道連盟から警告処分を受けた。折れそうな心を支えてくれたのは姉の愛や家族だった。「改めて感謝の気持ちを抱いた。今までも思っていたけど、本当には分かっていなかった」

 代表争いで大きく出遅れたが、国際大会で結果を積み上げて挽回した。最終選考会でライバルとの直接対決を制し、ついにリオ切符を獲得。その過程で柔道と向き合う自分自身の変化にも気づいた。「今まで柔道が好きと思ったことはなかった。小さい頃から嫌々だった。今は本当に好きと思えるようになった」

 女子代表で唯一、世界選手権や五輪でのメダル経験がなく、今回もノーシードから勝ち上がった。2回戦では第1シードのポリング(オランダ)を破るなど、得意の大外刈りで立ちはだかる相手を次々になぎ倒した。

 「いろいろ経験して酸いも甘いも知った。苦しかったことも今日のためにあったのかなと思う」。今大会の日本女子金1号。輝くメダルは柔道への愛情が実った証だった。

 ◆田知本 遥(たちもと・はるか)1990年(平2)8月3日、富山県射水市出身の26歳。小杉高から東海大へと進み、13年4月からALSOKに所属。10年、12年、15年にグランドスラムを制覇。初出場の12年ロンドン五輪は7位。ドーピング違反の恐れのある市販薬を服用し、15年2月のグランプリ大会を欠場。姉の愛は78キロ超級の選手。1メートル68、70キロ。

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