錦織は少数派…五輪テニスを取り巻く微妙な状況

[ 2016年7月15日 09:00 ]

リオ五輪への意気込みを語る錦織

 リオ五輪で112年ぶりに復活する男子ゴルフでは、世界ランキング上位10人のうち実に6人が不参加となった。ジカ熱や治安の問題があるとはいえ、最大の理由は競技におけるメダルの価値にある。

 これと同様のことが過去にテニスでも起こっている。2つの競技は五輪に頼らずとも成立するプロ競技。日常的にツアーで世界を転戦し、歴史と伝統ゆえに特別な価値を持つ4大メジャー(4大大会)があるという点で共通している。

 テニスは88年ソウル五輪で64年ぶりに復活したものの、男子シングルスのランキング(大会開幕時)上位10人で出場したのは今回のゴルフを下回る3人だった。当時世界1位のビランデルを始め、レンドルやアガシ、キャッシュといったトップ選手は軒並み欠場。ケガを抱える選手もいたとはいえ、ほとんどは五輪でテニス競技を行う意義を見いだせなかったようだ。

 一方で女子はトップ10から8人が出場している。女子は競技発展のため五輪にステータスを感じ、活用しようとしているのも今回のゴルフと相通ずる部分である。

 ソウル五輪ではグラフのゴールデンスラム達成、92年バルセロナ五輪では16歳のカプリアティの優勝、96年アトランタ五輪では母国でのアガシの金メダル。それなりの話題を振りまきながら歴史を重ねた五輪テニスは、00年シドニー五輪から男子のランキングポイントが付与されることになり、これが1つの契機となって選手の意識も変わり始めた。

 フェデラーは2大会連続でスイス選手団の旗手を務めるなど、近年はテニス界をけん引する“ビッグ4”が高いモチベーションで五輪に臨んでいることも大きい。12年ロンドン五輪が由緒正しきウィンブルドンの会場で行われたことで、その価値は一層高まったといえるだろう。

 そう考えて見ると、もしタイガー・ウッズが全盛時の強さで君臨し五輪への情熱を表明していたら、ロンドン五輪からゴルフが復帰して聖地セントアンドリュースが開催コースとなっていたら、五輪ゴルフを取り巻く熱気は随分と変わっていたかもしれない。

 ただし、五輪テニスも安穏とはしていられない。今回のリオ五輪ではランキングポイントが付与されなくなった。これは4年に一度の五輪を管轄する国際テニス連盟と、それによって影響を被ることへの“補填”を求めるツアー側の対立が一因のようだ。いずれにしろ選手への影響は大きい。

 賞金もない、ポイントもない。となればメダル獲得が厳しそうな選手は、裏開催のツアーで少しでもランキングを上げ、賞金を稼いだほうがいいと考えるのが自然なこと。今回のリオを回避した選手に15~30位あたりの中堅どころが多いのはそういうことだろう。

 「ポイントがつかない点では全く別の大会になってしまうが、日本全体が支援してくれる。(ツアーとは)また違った意味合いがある」とそれでも意義を見いだす錦織のような選手はむしろ少数派。また昔のようなお寒い状況に戻ってしまう可能性は決してゼロではないと思う。(記者コラム・雨宮 圭吾)

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2016年7月15日のニュース