高藤 リオ金1号へ ハイブリッド投げ「背負い肩車」決める!

[ 2016年7月7日 15:10 ]

新型肩車について語る高藤

 リオ五輪開会式(8月5日)の翌日から競技が始まる柔道で、日本男子の先陣を切るのが60キロ級代表の高藤直寿(23=パーク24)だ。毎週水曜掲載「カウントダウンリオ」の今回のテーマは「メダル候補の秘技解剖」。アクロバチックな高藤の柔道でも、肩車は代名詞的な技の一つ。日本伝統の柔道とグローバル化したJUDOを掛け合わせ、ルール変更も乗り越えた“ハイブリッド肩車”に迫った。

 5月のゴールデンウイーク、東京都文京区の講道館で代表選手が小学生に技を教えるイベントが行われた。袖釣り込み腰担当だった高藤だが一通り教え終わると時間を持て余し、「何か教えてほしい技ある?」と子供たちに尋ねた。すぐに「肩車」「高藤スペシャル(変型大腰)」と声が返ってきた。

 どちらも高藤の必殺技。相手の懐に潜り込んで担ぎ上げたり、密着して抱え上げる大技である。襟と袖の2本をしっかり持つことを金科玉条とする日本柔道からすれば異端。しかし子供は正直だ。強くてカッコいいと感じるものに単純に憧れている様子だった。

 「何十年か前の柔道家が高藤の柔道を見たら“なんじゃこりゃ!?”と思うでしょう」。男子代表の井上康生監督の言葉は、そのはみ出しっぷりをよく表している。高藤自身は自らのスタイルについて「逃げてくる相手にどう対応するかで奇襲技を始めた。どんどんそっちが楽しくなって(2本持つ柔道から)かけ離れてしまった」と語っている。

 小学生時代、栃木・野木町柔道クラブですでに全国を制する実力者だった。今も高藤の生命線である小内刈りばかりでなく、背負い投げや内股も切れていた。

 それがどこで道をそれたのか。同クラブの福田健三会長はこう記憶している。「先輩の聖が世界ジュニアを肩車で勝っていて、そのビデオをまとめて子供に見せたんだ。それからまねするようになったんだな」。男子66キロ級代表の海老沼匡(パーク24)も同じ道場出身で、当時はその兄・聖(さとる、現パーク24コーチ)が出世頭。相手を追い詰める次の一手として高藤にはその柔道を欲する理由があり、実践する高い能力もあった。

 ところが転機が訪れる。09年に国際柔道連盟は立った状態での下半身への攻撃や防御を禁じるルールを採用。タックル技の横行を制限することが狙いだった。徐々に厳格化され、14年からは寝姿勢以外で足に触れることは全面禁止となった。このあおりを受け、高藤は09年全日本ジュニアで足取りによる反則負け国内第1号となった。この時はすくい投げだったが、相手の足を持つ従来の肩車も使えなくなった。

 同じく肩車を得意としていた海老沼が正統派に転身して窮地を脱したのに対し、高藤はそのまま先鋭化する道を選んだ。「足を持ったら投げられるのに」と翼をもがれた思いを抱きつつ、「体に染み込んでいるものを抜いていく」ように新たに技を構築していった。

 当時も今もヒントになるのは日本人より外国人の試合映像。「周りから見たらパワーだけに見えるちょっとしたテクニックを盗むのを大切にしている」。そこで得た発想を稽古場で繰り返し試す。その一つの到達点が足を取らない高藤オリジナルの肩車となった。

 「まず相手の懐に入ってから、しっかり左足を立てて一本背負いをする感じ」という一連の動きは、一つのコンセプトに基づいている。「どの技も力ずくで投げることはしない」。小柄な体で世界で勝ち抜くためには、できるだけ力を使わず、理にかなった動きを追い求めてきた。「相手の防御が100の時に投げられる技を持つのも大事かもしれない。でもそれは負荷がかかる。そうじゃなくて相手の防御が0のところに入ったら、まさかという方向に入ったら、それが一番投げやすい」

 最後の仕上げは背中で行う。相手の重心位置、傾き、全てを感じて投げ落とす方向やタイミングに変化をつける。「そういう技術で一番使うのが背中」。背中に宿る手のひら以上に繊細な触覚がダイナミックな技を可能にしている。

 「横文字のJUDOも取り入れながら日本柔道も忘れずにやっていく。ルール改正の時にそこを凄く重視したし、そこを捨ててはいけないと思っている」。強固な柔道の土台の上にJUDOを重ねたハイブリッド肩車はそのたまもの。リオ五輪が終わったら、世界中の子供たちが教えてほしいとせがんでくるかもしれない。

 ◆高藤 直寿(たかとう・なおひさ)1993年(平5)5月30日生まれ、栃木県下野市出身の23歳。神奈川・東海大相模中から東海大相模高に進み、全国高校総体を11年まで2連覇。11年世界ジュニア選手権制覇。13年にリオで行われた世界選手権に初出場初優勝。東海大を卒業し、今春からパーク24に入社。14年6月に元強化選手の志津香夫人(27)と結婚し同年10月に長男・登喜寿君が生まれた。得意は小内刈り。左組み。1メートル60。

 ≪8・6登場≫本格的に競技が始まる8月6日に日本は金メダル候補が続々と登場する。誰が金メダル1号に輝くかにも注目だ。柔道では高藤だけでなく、女子48キロ級に近藤亜美(21=三井住友海上)が出場。14年世界女王は今年5月に強豪がそろうマスターズ大会でも優勝して準備は万端だ。競泳でも萩野公介(21=東洋大)と瀬戸大也(22=JSS毛呂山)の男子ツートップが400メートル個人メドレーでいきなり登場。同種目ではロンドン五輪金のロクテ(米国)が代表落選しており、金銀独占にも期待が懸かる。決勝の試合時間は柔道の方が競泳より早く、1号奪取のチャンスは大きい。

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