“ぶれない男”北はり磨、スロー出世で新入幕 真面目過ぎると言われても

[ 2016年7月1日 11:15 ]

名古屋場所で期待がかかる新入幕の北はり磨

 目立った風貌と豪快な性格の持ち主が多い大相撲の力士という職業において「北はり磨」(※はり=石へんに番)のしこ名を持つ男はマイノリティーな方だ。見た目も性格も派手か地味かでいうと確実に後者である。しかし、天性の素朴さと正真正銘の真面目さを持つ苦労人を相撲の神様は決して見放してはいない。

 愛知県体育館で10日に初日を迎える名古屋場所。先場所東十両4枚目で9勝6敗だった北はり磨は東前頭15枚目に番付を上げ、史上9番目の遅さとなる所要85場所で新入幕を果たした。02年春場所に15歳で初土俵を踏んでから14年と4カ月、12年初場所の新十両昇進からは4年半の歳月を要した。27日の新入幕会見では「番付の一番上段に自分のしこ名があるのでうれしい。入門した時から幕内に上がりたかったので良かったです」と控えめな男が喜びを口にした。

 小中学時代は同じ兵庫県出身で同学年の幕内・妙義龍よりも強く、全国大会の常連だった。しかし、プロ入り後はなかなか体重が増えずに力負けする日々が続いて出世が大幅に遅れた。18歳で入幕した同期入門の大関・稀勢の里はもちろんのこと、高卒の豪栄道、栃煌山、大卒の妙義龍、宝富士ら同学年の力士に次々と抜かれた。

 それでも「悔しかった。早く同じ番付に立ちたかった」と決して現実から逃げずに地道に努力を続けた。昨年11月に死去した先代師匠・北の湖親方(元横綱)からたたき込まれた「基本の大切さ」を愚直に遂行。現師匠の山響親方(元幕内・巌雄)は「24時間相撲のことしか考えてない」と証言する。趣味はなく、力士らしく豪快に飲みに出掛けることもめったにない。1日の過ごし方は「朝稽古して、ちゃんこ食べて昼寝してトレーニングして夜ご飯食べてストレッチして寝るという感じ」。若い衆より早く稽古場に下りてストレッチを始めることもしばしばで「やらないと不安になる」と夜な夜な屋上や電気の消えた稽古場で黙々と四股を踏む姿も周囲から目撃されている。気を張り詰め過ぎているのではないかと心配した北の湖親方から「もう一緒に(稽古場から)上がるぞ」と告げられたこともあったという。

 しこ名は一般的に使われる手へんの「播」ではなく、石へんを使う。字画の良さに加え「しこ名に重さが出る」という思いが込められている。石の上にも3年を地で行く29歳は「自分は小細工ができない」と120キロ余りのソップ形にもかかわらず、常に真っ向勝負の押し相撲を貫いてきた。念願の新入幕場所に向けても「小さい時から自分より体の大きな人しか対戦していない。今まで通りの相撲を取りたい」とスタイルを変えるつもりはない。稀勢の里が綱獲りに臨む場所で、その同期生が遅ればせながら到達した初めての幕内の舞台。たとえ真面目過ぎると言われても、ぶれずに自分を貫いてきた男がどんな相撲を見せてくれるのか楽しみでならない。(記者コラム・鈴木 悟)

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2016年7月1日のニュース