ドーピング検査 大切なのは大会前、東京五輪では日本人の倫理観示せ

[ 2016年6月30日 09:00 ]

ドーピング検査で使用される検査キット

 リオデジャネイロ五輪まであと40日を切った今になって、ドーピング検査の検体分析を行うリオの施設が国際基準に適合していないとして国際アンチドーピング機構(WADA)から資格停止の処分を受けた。このまま資格が回復しなければ大会中の検体は国際オリンピック委員会(IOC)の本部があるスイス・ローザンヌまで空輸して分析せざるをえず、輸送費だけでも数百万ドルかかるという。ただでさえ資金難にあえぐリオにそんな金があるはずもなく、このままでは大会中の反ドーピングは有名無実化しかねない。

 大会中のドーピング検査はもちろん大切だが、実はもっと大切なのは大会前、つまり今この時期なのだ。禁止薬物に指定されている薬の中には短期間で体から痕跡が消えてしまうものも多い。選手もバカではないから、試合前日や当日に薬を使う者は少なく、痕跡が体から消える時間を逆算して、試合の数週間前には投与をやめる。その手の悪質な違反者を摘発するためには、相手が油断している今この時期に行う「抜き打ち検査」がもっとも効果的なのだ。

 実際、4年前のロンドンでは大会中よりもむしろ大会前の検査に力を入れ、IOCと各競技の国際連盟(IF)が協力し、事前に大量の検査を行った。その結果、ロンドンは「これまででもっともクリーンな大会だった」と評価された。日本ももちろん全面協力し、当時の担当者によれば「大会前の3月ぐらいから、いつでも検査対象の選手のもとに駆けつけられるように24時間体制で待機していた」という。トップ選手はIFに常に居場所を報告する義務があり、その情報に基づき検査員が世界中あらゆるところに駆けつける。採取した検体はWADAが公認している各地の検査所に送られ、施設では検体が到着してから24時間以内に陽性か否かの結論を出すよう義務づけられている。この「抜き打ち検査」こそが反ドーピングの切り札なのだが、ロシアのように検査機関自体が隠蔽に協力していたり、リオのように技術的に正確な検査ができない施設があるとなれば、もはや何を信用したらいいのかわからなくなってしまう。

 20年東京五輪の組織委員会も、すでにロンドン同様に大会前の「抜き打ち検査」に全力で取り組む姿勢を表明している。日本国内での公認検査施設は一カ所のみだが、大会中は海外からの応援も加えて約500人体制で昼夜を問わず検体の分析が行われる。何かと不祥事続きの東京五輪だが、反ドーピング活動は日本の高い技術と日本人の倫理観を世界に示す絶好の機会でもある。今こそ日本のスポーツ界が先頭に立ってドーピング撲滅に取り組むことを強く望みたい。(藤山 健二)

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2016年6月30日のニュース