ドーピング検査員は敵ではなく記録の価値支えるパートナー

[ 2016年6月21日 12:40 ]

ドーピング検査で使用される検査キット

ドーピング検査員はミタ(中)

 いくら規制の網の目を細かくしても、隙間から漏れ出るドーピング。最近では従来の抜き打ち検査以上に厳格な、本当の意味での抜き打ち検査も用いられるようになってきた。選手が指定した1時間の枠を外し、不意を突いて行う“ガチンコ検査”である。日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の平井千貴シニアマネジャーは「選手が指定している時間に行くこと自体が事前通告になるという考えの国もある」と理由を語ってくれた。

 全てはドーピングが巧妙化するがゆえだ。選手は四半期ごとに日々の居場所情報を提出。各日とも朝5時~夜11時のうち60分間を検査対応可能な時間に指定し、この時間に検査員が出向く。ある選手が朝5時を検査の指定時間にしたとする。その翌日は夜10時を指定すれば、検査を免れる空白時間は40時間以上。“2日連続”で検査を受けても、ある種の成長ホルモンは使用の痕跡が消えてしまうという。それを防ぐために世界反ドーピング機関(WADA)は新たな検査方法を推奨している。選手の居場所は前後の入力情報から推測し、検査員が訪れるという。

 潔白な選手には「なぜそこまで?」とだまし討ちに遭ったような思いもあるだろう。JADAの浅川伸専務理事は「それで実際に違反が摘発されている事例もある」と言い、「対象者や競技種目を考え、むやみやたらにストレスがかかるようなことはやらない」とやむない事情だと説明した。

 選手にはマイナスばかりではない。検査情報はJADAからWADA、国際オリンピック委員会、各競技の国際連盟など世界中でリアルタイムで共有される。検査実績が少ない選手は疑いの目を向けられやすくなる。

 そうした選手は五輪選手村に入った途端に検査員につかまるかもしれない。選手村なら居場所が特定できているからだ。その対応に追われて時差調整もままならない。そんな事態が十分に考えられる。現状なら、ドーピング違反の多い瞬発系やパワー系の競技、かつロシアの選手なら、リオ入りしてすぐに検査される可能性が高くなるということだろう。

 こんな時代だからこそ、選手にとって検査員は敵ではない。スポーツの信頼、選手や記録の価値を支えてくれる大切なパートナーでもあるのだ。

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2016年6月21日のニュース