石川佳純 異端の戦型の原点…貫いた超攻撃型「絶対に間違いじゃない」

[ 2016年6月8日 11:00 ]

「カウントダウンリオ」で石川の最も悔しい試合に迫った

 毎週水曜日掲載「カウントダウンリオ」の今回のテーマ「負けたから今がある」は、卓球女子日本代表・石川佳純(23=全農)の最も悔しい試合に迫った。小学5年の全国大会準々決勝で天野優(23=サンリツ)に敗戦。同学年のライバルに敗れたことが、翌年の日本一獲得、現在の攻撃的スタイル確立につながった。天才少女が覚醒前に抱えていた劣等感とは?母子で築き上げた異端の戦型の原点を探った。

 10年以上たっても忘れられない負けがある。世界ランキング4位の石川が最も悔しい敗戦に挙げたのは、小学5年の時。03年の全日本選手権ホープス(6年以下)準々決勝で同学年の天野に敗れた試合だった。23歳になった今でも容易に思い出せるほど、神戸市・グリーンアリーナ神戸での記憶は脳裏に刻まれていた。

 「めちゃくちゃ、めちゃくちゃ悔しかった。同学年に負けて。試合後、1時間ぐらい泣いていました。初めて本気で勝ちたいと思って全国大会に出たのがその年で、それなのに負けてしまって」

 日本卓球協会には1―3で石川の負けという記録が残っている。どんな内容だったのか。“因縁のゲーム”の相手、天野は今、サンリツの主将を務める実業団のトップ選手である。「そんなふうに思ってくれているなんて、光栄です」と驚きながら記憶の糸をたぐった。

 「最後のゲームを覚えています。確か…3―7で負けていたところで私がタイムを取りました。そこから流れを取り戻して逆転して勝ちました」

 2人はライバルであり、友達だった。小学生の日本代表に一緒に選ばれ、遠征では同部屋で過ごしたこともあった。実績はその前年に4年以下の部で優勝した天野が上。ただ、この時の石川には秘める思いがあった。

 「小学生の間に全国優勝」が一家の目標。自宅に置いた卓球台で練習を積み、期限より1年早く日本一になる準備ができたと確信していた。それなのに同じ5年生に敗れた。悔しさのあまり、人目もはばからずに1時間も泣き続けた。

 当時は競技歴の浅さを埋めようと必死だった。卓球を始めたのは小学1年。全長2メートル74の台で向かい合うこのスポーツでは特別早いわけではない。例えばリオデジャネイロ五輪代表の福原愛は3歳、伊藤美誠は2歳だ。母・久美さん(52)は「人より遅かった」という認識だった。後に日本のエースになるサウスポーは、世間に定着する天才少女のイメージを否定した。

 「小学校の時はずっと勝てなかったという思いしかないです。毎年悔しい思いばかりでした」

 勝てなかった理由の一つが戦術にあったのかもしれない。卓球選手だった母は娘に攻撃卓球を教え込んだ。フォアハンドの強打、フォアドライブに徹底的にこだわった。結果が出ないことは、ある程度承知の上だった。

 「世界で勝つには攻撃しかないと考えていました。でも、筋力がない子供の頃は、(縦回転の)フォアドライブは取りやすいボールなんです。非力ゆえ、そこまで強い回転をかけられないので、簡単に返される。でも、気にせずに攻めることを徹底させました」

 理想は高い。だが、5年の時点では技術が追いつかず、天野に勝てなかった。前陣速攻の攻撃型だった天野は「一番やりたくない相手。うまい選手は他にもいましたが、気持ちは石川さんが一番強かった」という苦手意識を持っていたが、石川はミスもあって攻めきることはできなかった。

 この敗戦をベンチで見守っていた母は、悔しさをかみしめながらある思いを強くした。今に続くドライブ攻撃型の戦型で日本一を必ず獲ると、心に決めたのだ。「フォアドライブを軸とした攻撃は絶対に間違いじゃない。このままやっていけば大丈夫だから、と佳純に言い聞かせました」

 負けて2人に火が付いた。この後、「365日休みなしの練習をしました」と母は振り返る。それが実り、6年生になった翌年の同じ大会で初優勝。以後、国内タイトルをほしいままに手にし、世界へと羽ばたいた。

 負けては泣いていた小学校の自分を、石川はいとしそうに振り返った。

 「負けていいから攻めろと、母から言われていたのを覚えています。女子はナインオール(9―9)だと、突っつき(ちょんと返す)で守るのが主流でした。相手ミスを待ったほうが得点になる確率が高いからです。ナインオールでフォアドライブにこだわる私は、異端児だったと思います」

 4年前は個人4位、団体では銀メダルを獲得した。目前に迫ったリオでは団体、個人ともにメダルの期待がかかる。名実ともに世界のトップ選手の仲間入りをしたが、今でも変わらないモットーがある。「ナインオールで攻める気持ちはあの頃と同じです」。ラケットを握り始めてから18年間、体に叩き込んできたのが攻撃的スタイル。どんな強敵が相手でも、一歩も下がらない。

 ◆石川 佳純(いしかわ・かすみ)1993年(平5)2月23日生まれ、山口市出身。小学校卒業後に大阪へ卓球留学。四天王寺羽曳丘中から四天王寺高校へ。全日本選手権優勝4回。五輪初出場だった12年ロンドン五輪団体戦で日本の卓球界初のメダルとなる銀を獲得。世界ランキング4位。左利き。1メートル57、49キロ。

 ◆天野 優(あまの・ゆう)1992年(平4)11月25日生まれ、和歌山市出身。明徳義塾中学、明徳義塾高校を経てサンリツへ。15年全日本社会人選手権シングルス優勝。今年1月の全日本選手権ダブルスは、中島未早希と組んで初優勝を果たした。世界ランキング135位。右利き。1メートル58、53キロ。

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