工事遅れだけじゃない…人命、健康面にも不安残るリオ五輪

[ 2016年5月28日 08:30 ]

昨年、リオ市内のオリンピック公園前の湖に浮いた大量の魚(AP)

 スペインの五輪セーリング男子代表、フェルナンド・エチャバリ(43)がリオデジャネイロ市内の路上で5人のグループにピストルを突きつけられ、持っていた電子機器を奪われた。AP通信によれば宿泊していたホテルからヨットハーバーに向かう途中で起きた事件。「生きていられるのは幸運だ」と北京五輪のトルネード級で金メダルを獲得しているエチャバリは恐怖の瞬間を振り返っている。犯人たちは10代前半の少年。しかも薬物を服用していて正気ではなかったからだ。

 五輪誘致の際の目玉のひとつだった地下鉄はようやく開通にメドがたったが、それは開会式の4日前。しかも選手、スタッフとチケットを持った人しか乗れない。なんのための公共の交通網なのかは五輪期間中には理解できないだろう。

 国際自転車競技連盟(ICU)のブライアン・クックソン会長はトラックの競技会場(ベロドローム)の工事の進ちょく状況について「とても不愉快。信じられないくらいに遅い。今はもうどんな大会も間に合わないだろうと思っている」と嘆いていた。五輪本番まであと2カ月ほど。つまりまだ会場はできていないのだ。何度も“デッドライン”は過ぎ去っており、3月に予定していた大会も中止となった。

 下水の処理施設はようやく稼働するようになり、ボートやセーリングの競技会場はいくぶん汚染が改善されたというが、それを数値で指し示すつもりはないようだ。グアナバラ湾にはまだ多くのゴミが浮遊。「大会が始まるまでには海に浮かぶゴミは取り除ける」とリオデジャネイロ市側は“問題なし”を強調するが、それを信じるセーリングの選手たちは皆無かもしれない。

 久々に復活したゴルフ競技では、世界ランク上位の選手が「家族との時間を過ごしたい」といった理由をつけて続々と辞退。新たにゴルフコースを作ったまではよかったが、そもそも沼に隣接する場所に作ったのでどうしても蚊が多くなる。そうすると今、問題になっているジカ熱に感染するリスクがあるため、本音を語らないままに五輪からは距離を置いているようだ。

 工事の遅れや予算不足などは過去の五輪でも問題視されたことがあった。しかしフタを開けてみればなんとか大会は成立している。しかし今回は人命と健康という大切な基本事項までがぐらつく異例の事態となっている。しかも国を率いるリーダーは弾劾裁判の渦中にあって職務停止。さてリオデジャネイロ五輪ではいったい何が起こるのか?選手の人生物語よりもトラブル関連の原稿が多いという“最悪の事態”だけは避けてもらいたい。(スポーツ部・高柳 昌弥)

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2016年5月28日のニュース