荒井 亡き母にささげた夢切符!2位で初の五輪代表確実に

[ 2016年4月18日 05:30 ]

優勝した谷井孝行(左)と抱き合って喜ぶ2位の荒井広宙

陸上日本選手権50キロ競歩

(4月17日 石川県輪島市)
 リオデジャネイロ五輪代表最終選考会を兼ねて行われ、昨夏の世界選手権4位の荒井広宙(ひろおき、27=自衛隊)が3時間44分47秒で2位に入り、初の五輪代表を確実にした。世界選手権銅メダリストで既に代表に決まっている谷井孝行(33=同)に35秒及ばなかったが、昨年11月に亡くなった母・繁美さん(享年63)に夢切符をささげた。代表枠は3で昨秋の全日本高畠大会を制した森岡紘一朗(31=富士通)も既に決定。競歩代表は18日に正式発表される。

 愛する母がいる天に向かって、荒井が右手を突き上げた。谷井には35秒及ばなかったが、2位に入ってリオ切符を確実に。「内定ではないけど、リオにかなり近づいたと思う。うれしいのひと言」。昨年11月24日、母・繁美さんが卵巣がんのため死去。「天国で喜んでくれればいいな」。スタート時は冷たい雨が降っていたが、荒井がフィニッシュする頃、母からの祝福のように晴れ間がのぞいていた。

 沿道では父・康行さん(67)が繁美さんの遺影を持って声援を送った。荒井は中盤まで気づかなかったが、勝負どころの30キロ以降、大きな声で応援してくれる父と、優しくほほ笑む母の生前の姿が目に入った。「荒井家に明るい話題を提供したいと思った。遺影を見た時は気合が入った」。中間点では谷井と1分20秒差だったが、終盤に猛追。ゴール後、康行さんと顔を合わせると、涙を我慢できなかった。

 これまで世界選手権には3度出場したものの、五輪とは無縁。12年4月の日本選手権50キロで6位に沈み、ロンドン切符に届かなかった。「4年前のことはトラウマ。悔しくて1、2カ月、何もする気が起きなかった」。どんな時も、母は優しく見守っていた。競技の会話はなくても、帰省すれば荒井の好物の肉じゃがを用意してくれた。3月下旬にインフルエンザにかかって調整に狂いが生じたが、最後まで病魔と闘った母を思えば、泣き言は言えなかった。

(前だけ見据え/) 代表が正式に発表されるきょう18日は、繁美さんの誕生日。「これからも天国で見守ってもらいたい。ここからがスタート。リオでは谷井選手に勝って、メダル争いをできるようなレースがしたい」。目を閉じれば、気丈な母の姿が目に浮かぶ。「母ちゃんは自分が死ぬと思っていなかったんじゃないかな。いつも前向きな人だった」。前だけを見据え、荒井は歩む。母がいる天国に一番近い場所、それは表彰台の真ん中だ。

 ◆荒井 広宙(あらい・ひろおき)1988年(昭63)5月18日、長野県出身の27歳。中野実2年で競歩を始め、福井工大、石川陸協、北陸亀の井ホテルを経て自衛隊。50キロ競歩で世界選手権に3度出場し、11年10位、13年11位、15年4位。3時間40分20秒の自己ベストは日本歴代3位。名前には父・康行さんの「スケールの大きい人間になってほしい」という思いが込められている。1メートル80、62キロ。

 ▼50キロ競歩の選考 枠は最大3で昨夏の世界選手権銅メダリスト・谷井、全日本高畠大会を制した森岡は既に決定。残る枠は1で、日本陸連の派遣設定記録(3時間45分2秒)を破っている荒井は今大会で優勝すれば代表決定だったが、2位のために決定ならず。ただ、選考対象となる全日本高畠、日本選手権の各上位3人の中では荒井のタイムが群を抜いており、代表入りは確実になった。

◇日本選手権50キロ競歩◇  
(1)谷井 孝行(自衛隊)3時間44分12秒
(2)荒井 広宙(自衛隊)3時間44分47秒
(3)勝木 隼人(自衛隊)3時間52分7秒 

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