リオまで残り10カ月、世界王者に立ちはだかる“五輪の怖さ”とは…

[ 2015年11月6日 09:20 ]

世界選手権から帰国し、笑顔で会見する内村

 体操の世界選手権で内村航平が圧倒的な強さで3個の金メダルを獲得した。この活躍で、柔道や競泳など今年の世界選手権で日本が獲得した五輪種目の金メダルは合計18個となった。来年のリオデジャネイロ五輪への期待は高まるばかりだが、もちろん世界選手権の結果がそのまま五輪につながるわけではない。内村やレスリングの吉田沙保里のように経験豊富な選手はともかく、初めて五輪の舞台に立つ選手たちにとってはこれからが大変だ。今回金メダルを獲ったことで世間の注目を浴び、一気に重圧が高まるからだ。

 これまでも、金メダル確実と言われながら悔し涙を流した選手を何人も見てきた。古い話で恐縮だが、84年のサラエボ五輪の時、スピードスケートの黒岩彰(現富士急監督)は前年の世界スプリントで日本人初の総合優勝を果たし、文字通り日本中の期待を一身に集めていた。毎日朝から晩までマスコミに追いかけられ、レース当日は移動のバスの中にまでテレビカメラが入り込むほどの過熱報道が続いた。結果は金メダルどころか10位と惨敗。一転して精神面の弱さを指摘され、当時はまだ珍しかったメンタルトレーニングを初めて本格的に導入。4年後のカルガリー五輪でようやく銅メダルを手にすることができた。

 それから20年以上たってから、本人にあらためて当時の心境を尋ねたことがある。実は五輪前から散々、金メダル確実と持ち上げられ、いつの間にか自分自身でもすでに金メダルを獲得したような気持ちになっていたのだという。サラエボ空港に到着した時には一瞬「あれ、何で俺はここにいるのかな。確かもう金メダルは獲ったはずなのに」と思ったというのだから、すでにまともな精神状態ではなかった。金メダルへのプレッシャーというのはそれほど凄いものなのである。

 94年のリレハンメル五輪。前シーズンに日本人初のW杯総合優勝を飾り、絶対王者とまで言われたノルディックスキー複合の荻原健司は個人前半のジャンプで失速。金メダルどころかまさかの4位に終わった。団体では見事に金メダルを獲得したが、今でも個人の話になると「ミスさえしなけば勝てると守りに入ったのがいけなかった」と悔しがる。経験豊富な王者でさえ知らず知らずのうちに守りに入ってしまう。それが五輪の怖さなのだ。

 今年世界選手権で金メダルを獲得した選手たちが、どうやってプレッシャーを克服していくのか。あと10カ月、その課程と結果をしっかりと見届けたい。 (藤山 健二)

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2015年11月6日のニュース