新国立 陸上界におけるこれからの5年は「東京後」を見据えた戦い

[ 2015年9月28日 09:48 ]

7月、新国立競技場建設問題で、1625億円の数字を示し説明するデザイン選考の審査委員長、安藤忠雄氏

 ラグビーW杯で日本が南アフリカに逆転勝利した価値を、我が家で説明していると、子どもたちに混じって聞いていた妻が言った。

 「ラグビーが盛り上がったからって、国立競技場を19年大会に間に合うように作る、なんて方針に戻すことはないの?」

 言葉に含まれていたのは、二転三転した印象のある国の施策に対する疑念。と同時に感じ取ったのは「多少予算がかさんでも作るべきではないの?」という寛容さ。つまりこれが、アスリートが世界で活躍したことの価値を認めたというなのだろうと妙に納得してしまった。

 そこで思い出したのは、新国立競技場の再検討における陸上のこと。新計画では20年五輪パラリンピックの終了後、将来のサッカーW杯招致に向けて固定式の観客席が増設される可能性が高い。設置されるのは、陸上のトラックの上で、つまりは設置後は陸上の競技会が行われる可能性が消える。可動式の座席を設置した場合に見込まれる約100億円の費用を削減するための「苦肉の策」。とはいえ、例えば50年利用するとすれば年間2億円というコストは、陸上という競技の持つ価値を考えたとき「ムダ」と判断されたことは間違いない。

 これを陸上の「不運」と言い切るのは、ちょっと違和感がある。例えば、マラソンや駅伝以外の陸上の大会を年間何度、目にしたか?会場を訪れた観客に、競技を分かりやすく見てもらう工夫は十分だっただろうか?多くの競技団体と同様、無策を感じてしまうのは私だけではあるまい。幸運にも桐生祥秀、サニブラウン・ハキームら、スター候補生が続々と生まれている。「盛り上がり」で価値を証明し、運命を変えることができるか?ここからの5年は陸上界にとって、東京だけでなく「東京後」を見据えた戦いとなる。(首藤 昌史)

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