全米は惜しくも準Vも…観客を沸かせたフェデラーの必殺技

[ 2015年9月15日 10:30 ]

全米オープンでは惜しくも準優勝に終わったロジャー・フェデラー(AP)

 古くは「巨人の星」の大リーグボールに始まり、記者の年代でいうとキャプテン翼の「スカイラブハリケーン」が思い浮かぶ。スポーツマンガにはいつも奇想天外で魅力的な必殺技があふれていた。しかし当然のことながら、実際にスポーツを取材していてもそうした必殺技などそうそう出合うものではない。

 だが今年のテニスの全米オープンでは、驚きに満ちた技を見せてくれた選手がいた。4大大会史上最多17回の誇るロジャー・フェデラー(34=スイス)である。

 必殺技の名前は「SABR(セイバー)」。初期はカミカゼアタックとも呼ばれていたが、今は「Sneak Attack by Roger(ロジャーの奇襲攻撃)」の頭文字を取った呼び名が定着したようだ。

 相手が第2サーブを打つ瞬間にするするっとポジションを上げる。サーブラインまで1メートルもないほどの極端に高い位置だ。そこからショートバウンドでボールを拾い上げる。返球自体は緩くなるが、いち早くネットにつめることで次のボレーが決まりやすく、相手の打ち返すコースも狭まる。何より相手は慌てふためく。リターンダッシュではなく、順序としてはダッシュリターンが正しい。

 フェデラーがこの技をひらめいたのは、全米直前に優勝したウェスタン・サザン・オープン(米シンシナティ)の練習日だった。移動してきたばかりでひどく時差ぼけ、相手のペア(フランス)も体調いまいち。ゲーム形式の練習をすることになったが「2人とも早く帰りたがってた。“早く終わらせたいからリターンダッシュするよ”って、走ってリターンを打ったら何本かウィナーが取れちゃったんだ」。翌日の練習でも、その次の練習でも試してみるとうまくいく。コーチに「試合でも使えば?」と言われて、その気になったという。

 第1サーブよりスピードは落ちるとはいえ、第2サーブは種々のスピンがかかって弾み方は一様ではない。「とにかく覚悟を決めるしかない。ベースラインからのリターンダッシュなら前に出るか考え直す余裕もある。セイバーに逃げ道はない」。必要なのは瞬発的で巧みなラケットさばき。まるで鞘からサーベル(saber)を引き抜くように、足元から軽やかにボールを引き上げる。それはフェデラーにしかできない匠の技だ。

 ここ数年のフェデラーは、若い選手があまりやらないサーブ&ボレーを自分の強みとして再び押し出している。その指向性とも「セイバー」は合致した。全米オープン決勝では惜しくも世界No・1のノバク・ジョコビッチ(セルビア)に敗れたが、要所で放つ「セイバー」は確実に試合の流れを変えていた。ジョコビッチが第1サーブを失敗しただけで歓声が沸いたのも、1つにはそれ見たさの観客心理があったように思う。

 「自分でも楽しんでやってるよ」と話していたフェデラー。見るものをワクワクさせるワンショット。まさにマンガに出てくるような必殺技である。(雨宮 圭吾)

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