“名参謀”父を失い自ら相手を研究…止まらない女王の進化

[ 2015年9月11日 08:30 ]

レスリングの世界選手権女子53キロ級でスウェーデンのソフィア・マットソン(下)を破り優勝した吉田沙保里

レスリング世界選手権第3日 女子53キロ級決勝 吉田沙保里 2―1 ソフィア・マットソン

(9月9日 米ラスベガス)
 観客席には母・幸代さんと兄・英利さんの姿とともに、昨年3月に亡くなった父・栄勝さんの遺影があった。準決勝を突破した吉田は父に五輪代表決定を伝え「最後まで頑張ってくるよ」と気合を入れ直した。優勝を決めた後には「天国から見てくれたと思う」と感慨深げだった。

 代表コーチでもあった父の不在は試合へのアプローチの仕方を変えた。栄和人強化本部長は2人の役割分担についてこう振り返る。「以前は吉田の親父が相手を全部研究して、それを沙保里に説明した。沙保里は相手を見ながら“こんな感じかな”と探りながら試合をしていた」

 今は代表のサポートスタッフが、想定される対戦相手の映像を収集して吉田に提供している。相手の研究には熱心でなかった吉田だが、対戦相手の顔触れも若返り「もうがむしゃらにできる年齢でもないから」とスマホやiPadにそれを入れてチェック。父の代わりに自分で情報をインプットしている。「顔と名前は一致しないけど、こういう選手がいると分かっていれば対応が違う」。この日の準決勝のチョン・ミョンスクとも初対戦。強引な攻めでは返し技を食らうため、それまでとは一転、慎重に戦い、組み手で相手をつぶすうまさを見せた。

 ALSOKの大橋正教監督は「もう少し相手を崩してタックルが決まる確率を高めないと」と課題を挙げつつも「“競っている時は失点につながるタックルは入るな”という鉄則をきちんと守っている。状況判断は抜群。試合運びはどんどんうまくなっている」と語る。大きな支えを失ったことが促した独り立ち。吉田はいまだに進化を続けている。

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