“31歳の鉄人”上田藍 20年東京五輪で熟練の星になる

[ 2015年5月12日 11:15 ]

トライアスロン女子の上田藍

 5年後に迫った東京五輪のお題目の一つは「レガシー(遺産)」だという。続々現れる新星、ホープ、期待の若手の成長はもちろんいいが、熟練のアスリートが培ってきた豊富な競技経験だって貴重なレガシーに違いない。トライアスロン女子の上田藍(31=シャクリー・グリーンタワー・稲毛インター)も着実に競技力を向上させながら、36歳で迎える夢舞台まで進化を誓う一人。彼女のようなベテランアスリートもきっと2020年を彩る星になるはずだ。

 前回の東京五輪では射撃男子フリーピストル銅メダル、28歳の吉川貴久が個人種目の日本人最年長メダリストだった。半世紀がたち、スポーツ界は大きく進化した。アスリートの競技年齢も飛躍的に伸び、いまや不惑を超えた“レジェンド”が200メートル超の大ジャンプで世界を沸かせる時代である。

 上田は5年後は36歳。順調にいけば4度目の五輪になる。多くのホープたちと同様に、いやもっと具体的に、母国五輪での活躍をイメージしている。「ベテランは来年のリオで燃え尽きると勝手に思われている。いやいやちょっと待ってください」とくぎを刺した。

 スイム1・5キロ、バイク40キロ、ラン10キロの合計51・5キロで争うトライアスロンこそ、フィジカル重視、ベテランには酷な競技に思えるが、実際には経験が占める割合も大きいという。スイムではベテランほど集団内で巧みに体をぶつけて推進力に変える。バイク、ランでも位置取りペース操作がレースの鍵を握る。昨季の世界シリーズでは女子上位10人のうち半数が上田と同じ30代。対人の駆け引きがあるからこそ経験が不可欠なのだ。

 もちろん基礎的な泳力、走力の向上がなければメダル獲得はおぼつかない。上田の強みは「まだ一度も慢性的な疲労で故障したことがない。少しずつだけどベストタイムを更新し続けている」という日進月歩の歩みにある。今オフは週平均でスイム2万8079メートル、バイク238キロ、ラン67キロのメニューを消化。3種目のバランス差はあるものの20代の頃と全く遜色のないトレーニング量をこなし、高地練習恒例の10キロ走では今年自己ベストを更新した。昨季は国内外合わせて自己最多21大会に出場。2週間に1レースのペースは20代の頃よりも増えている。

 「朝起きた時の体の感覚はジュニアの頃と変わっていない。そうできることがベテランの味」。10年に練習中の落車事故で外傷性くも膜下出血を負った以外は筋肉系のケガとは無縁の競技生活。上田の鉄人ぶりは「メリハリをつける。どの選手よりも私は休んでいる日数が多い」という“時間休”の考え方にも支えられている。

 完全なオフは木曜のみ。ただし、水曜の午後、金曜の午前といった半日休を組み合わせることで2日分=48時間の休みを確保する。「1週間で完全休養は1日だけど3日(72時間)は休んでいるように見える。曜日で区切らない時間休養です」。さまざまな種目を効率よく強化するために、この方法で筋肉の各部位に必要な休息を与える。これに日頃のケアとピーク時は一般成人女性の3倍超にもなる1日6000キロカロリーの食事量が加われば、衰え知らずのアスリートボディーが出来上がる。

 「まだまだこれから伸びる、進化していけることを証明したい」と語る上田のまなざしはリオ、そして東京へ。若さと勢いを老練な技術と経験が駆逐するのもまたスポーツの醍醐味(だいごみ)。5年後の祭典ではいくつそんなシーンに出合えるだろうか。

 ◆上田 藍(うえだ・あい)1983年(昭58)10月26日、京都市生まれの31歳。4歳で水泳を始め、加茂川中では水泳部、洛北高では陸上部に所属。02年から千葉・稲毛インターナショナルトライアスロンクラブで山根英紀コーチの下で本格的に競技に取り組む。アジア大会では06年ドーハ銀メダル、14年仁川金メダル。五輪は08年北京17位、12年ロンドン39位。1メートル55、44キロ。

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