手負いのプリンス悲壮な決意で出陣 羽生「死と隣り合わせ」

[ 2014年11月28日 05:30 ]

公式練習でジャンプを決める羽生

 フィギュアスケートのGPシリーズ第6戦NHK杯は28日、大阪なみはやドームで開幕する。ソチ五輪金メダリストで第3戦・中国杯で頭部、左太腿など5カ所を負傷した羽生結弦(19=ANA)は27日の公式練習で得意のジャンプにミスが目立つなど、本調子にはまだ程遠い状態。手負いのプリンスは、プログラムの難度を落とす“現実路線”で28日のショートプログラム(SP)、29日のフリーに臨む。

 羽生結弦というアスリートのスタンスが凝縮された言葉だった。会見で外国人記者が中国杯での事故と強行出場について質問。この日、オーストラリアのクリケット選手が頭部にボールが当たって亡くなったと海外メディアで報じられたことを受け「リスクを取らなくても良かったという思いは?」という問いに対する、19歳の答えはこうだ。「スポーツってのは自分たちの限界に挑んでいる。ある意味では、死と隣り合わせ」。衝撃のフレーズに、自身の思いを込めた。

 今月8日、中国杯男子フリー直前の6分間練習で閻涵(エンカン、18=中国)と正面衝突。初めて口を開いた羽生は語った。事故の生々しさと、少しの幸運について。「1秒に満たない時間差があったとしたら、僕はいなくなっていたかもしれない。振り向いた瞬間にぶつかったので、顔をそらすことができたし、腕も出せた」。脳振とうが懸念された中の強行出場。オーサー・コーチや連盟など羽生を止めなかった周囲に批判もあったが、「ブライアン(オーサー・コーチ)、連盟に感謝しているし、今ここにいる自分の体に感謝したい」と話した。

 頭部、左太腿など5カ所を負傷。「痛くて眠れない時もあったし、歩くのがつらい時期もあった」。氷上練習再開は約1週間前で、初めて氷に乗った時は「少し“やめる”という考えがあった」と言う。だが、今大会3位以内で自力でファイナル切符が獲得できること、日本男子初のファイナル連覇への意欲が、欠場の考えを上回った。

 この日の公式練習では、9度挑んだ得意の4回転トーループでわずか2度の成功。4回転サルコーは一度も決まらなかった。SPは演技後半の4回転トーループを前半に移し、フリーは4―2回転のコンビネーションを回避する“現実路線”で、リンクに立つ。「万全の調子じゃないし、体力もしっかり落ちてしまっている。構成を下げてまで出るのは皆さんに申し訳ないけど、ファイナルに出たいし、今できる最高の演技をここでしたい」。どんな状態でもベストを尽くす。これもまた、羽生結弦というアスリートのスタンスだ。

 ▼ファイナルへの道 GPシリーズは各大会ごとに1位15点、2位13点、3位11点、4位9点…8位3点(アイスダンスは6位5点まで)と順位に応じたポイントが与えられる。出場2大会の合計ポイントの上位6選手が、最終戦のファイナルに進出。中国杯で2位に入った羽生は現在13点。NHK杯3位以内なら自力で進出、4位以下でも他の選手の成績次第で可能性がある。

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