羽生、激突流血押し志願出場 涙の銀!5回転倒も怪人演じきった

[ 2014年11月9日 05:30 ]

男子フリーの直前練習中に中国選手と激突し、係員に抱えられる羽生結弦

フィギュアスケートGPシリーズ第3戦中国杯最終日

(11月8日 中国・上海)
 驚異の精神力でアクシデントを乗り越えた。男子フリー直前の6分間練習で羽生結弦(ゆづる、19=ANA)が、閻涵(エン・カン、18=中国)と正面衝突。頭と顎から流血し、会場から悲鳴が上がった。それでも、治療後に強行出場し合計237・55点で2位に入った。日本で精密検査を受けるため、エキシビションには出演せず、9日に帰国する。 

 激しい衝突音の後、会場に悲鳴が交錯する。男子フリー最終組の6分間練習で、悲劇は起きた。スピードに乗り、後ろ向きに滑っていた羽生が前を向いた瞬間、閻涵(エン・カン)と正面衝突。氷に激しく顔面を打ち付け、うずくまった。何とか立ち上がろうとしたものの、仰向けになった後に動けなくなった。頭と顎から流れた血が氷を濡らす。首に生々しい血痕を残したまま、リンクから去って治療を受けた。誰もが棄権を覚悟する中、羽生だけが闘志を失っていなかった。

 頭に肌色の包帯、顎にはばんそうこうを貼り、再びリンクサイドに姿を見せた時には泣いていた。それでも、「閻涵は?」と激突の当事者を気遣い、再開された6分間練習に参加。痛みに顔をしかめ、跳ぶたびによろめいた。ルッツの回転が抜け、得意の4回転トーループでも着氷が乱れる。ブライアン・オーサー・コーチは「ここでヒーローになる必要はない」と諭したが、羽生の答えは決まっていた。

 「演技したい」

 棄権と思われた閻涵も演技。閻涵と握手を交わし、声援を送ってから、勝負のリンクに立った。フリーはボーカル入りの「オペラ座の怪人」だ。冒頭の4回転サルコー、続く4回転トーループはともに転倒。基礎点が1・1倍になる演技後半に跳ぶ予定だった4―2回転のトーループは回避した。他にも3回転半、3回転ループ、3回転ルッツと計5度も転倒した。

 10月のフィンランディア杯を腰痛で欠場。腰をかばうことで体全体のバランスが崩れ、他の部分にも痛みが出ていた。鎮痛剤を服用して臨んでいた上にアクシデントも発生し、リンクに立てる状態ではなかった。スケート人生最大の苦境。それでも、19歳は不屈だった。4分30秒、主人公のファントムを演じきった。

 演技後は自力で立つのがやっとの状態で、オーサー・コーチに抱きかかえられてリンクを下り、得点を待った。スコアが表示されると涙があふれ、嗚咽(おえつ)が止まらない。キス&クライから下り、ストレッチャーに乗せられてリンクサイドから姿を消した。その後、顎を7針縫い、足は軽い肉離れ。周囲に「ありがとう」と言い残し車いすで会場を後にした。

 日本で精密検査を受けるためエキシビションを欠場して9日に帰国。それでも、周囲にはエントリーしている11月末のNHK杯までの日数を口にし、出場に意欲を示したという。強行出場の代償は大きいが、五輪を制した世界一の19歳は一スケーターの枠を超えた強さを見せつけた。

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