渡部暁「僕らしい」銀！複合ニッポン復活２０年ぶりメダル

２位でゴールし、ガッツポーズをする渡部暁

　「複合ニッポン」復活だ。ソチ五輪ノルディックスキー複合の今大会最初の種目、個人ノーマルヒルが１２日に行われ、渡部暁斗（２５＝北野建設）が銀メダルを獲得した。前半飛躍（ＨＳ１０６メートル、Ｋ点９５メートル）で１００・５メートルをマークして２位につけると後半距離１０キロでも優勝を争って２位でフィニッシュ。複合では団体で２連覇し河野孝典が個人２位となった９４年リレハンメル五輪以来、２０年ぶりのメダルをもたらした。

【競技結果】

　興奮や歓喜よりも少し冷めた言葉が先に出た。斜に構えているわけではない。メダルを獲ってもひょうひょうとしているのが渡部暁斗らしさだ。

　「僕らしいんじゃないですかね。２位っていう定位置に収まってるし」

　高３で高校総体を制するまでは優勝に縁遠く“シルバーコレクター”と呼ばれた。Ｗ杯でも今季と昨季で未勝利の２位６回。五輪で初めてのメダルもやっぱり銀で自分らしいと屈託なく笑った。

　もちろんレース中までひょうひょうとはしていられない。前半飛躍は会心のジャンプで２位につけ、後半距離を首位フレンツェルと６秒差でスタート。今季Ｗ杯７勝、総合首位の宿敵とは「協力して逃げていこう」とレースプランを立て、互いに先頭に立って後続の大集団から距離を置いた。

　勝負どころは残り１キロ手前の上り坂。よーいどんの勝負ならフレンツェルにはかなわない。「最後の上りで長めに仕掛ける。そこしかチャンスはない」。渡部暁から前に出た。しかし、残り４００メートル付近で再び抜き返された。「やっぱりこんな感じか」。最後は疲労困憊（こんぱい）。右手を上げてゴールすると、雪の上に大の字に倒れた。

　ジャンプと距離を合わせた複合競技。「ジャンプの選手と比べたらジャンプは一番じゃないし、クロスカントリーもそう。ある意味、いつまでも極まらない道をずっと歩いている」。それがある種の達観にもつながっている。トップアスリートとしては珍しく専属のトレーナーもつけず、独学で体の使い方を磨いてきた。「誰かに委ねると思考が停止しちゃう。それは嫌だし、面白くないじゃないですか」。今季のＷ杯転戦中にも、目の前に広がるコースを眺めながら「これも僕の遊びみたいなもの。こういう（高いレベルの）ところで遊んでいるのが楽しいんですよ」とつぶやいた。

　五輪に対しても自分なりのスタンスを貫く。「僕は五輪に向かっているわけではない。でも、世界一の選手になるために避けて通れないところに五輪がある」。一発勝負の五輪よりも安定した強さが必要なＷ杯総合優勝こそが渡部暁には最高の勲章。だが、それを踏まえた上で「今回のメダルには大きな意味がある」という。「メダルを獲れずにＷ杯の方がレベルが高いと言っても負け犬の遠吠え。今後の発言のためには意味のあるメダルになった」。３度目の五輪でつかみ取った銀メダル。五輪２位という成績を示す以上に渡部暁には価値あるものになった。