遠藤“後の先”で史上最速10勝 琴欧洲ブン投げた

[ 2014年1月25日 05:30 ]

琴欧洲を破った遠藤が支度部屋でザンバラ髪を整える

大相撲初場所13日目

(1月24日 両国国技館)
 ざんばらの新星が大仕事をやってのけた。西前頭10枚目の遠藤(23=追手風部屋)が豊山(後の大関)、長岡(後の大関・朝潮)と並んでデビューから6場所目での史上最速の2桁勝利を達成。先場所まで大関だった関脇・琴欧洲を意図的な“立ち遅れ”からのすくい投げで破り、10勝目を挙げ、三賞を確実なものとした。
【取組結果】

 勢い余って土俵から転げ落ちた遠藤は砂を払うようにパチンと両手を叩いた。胸を張る立ち姿に、満員御礼の1万304人からこの日一番の大歓声が浴びせられる。元大関を下したざんばらの新星が人気に負けない確かな力を証明した。

 「待ったなし」と告げられ、仕切り線に向かった瞬間、ひらめいた。2メートル2の琴欧洲が仕切り線から離れている。「普通に踏み込んだら自分の体が(前のめりで)伸びきる。(自分と)相手が当たりやすいところに踏み込んだ方がいい」。わずか数秒で下した判断は「わざと立ち遅れること」だった。

 立ち合い。相手得意の右差しを警戒しつつフワリと立ち、思い通りに左を差して下手をつかむ。そして、琴欧洲がやみくもに寄ってきた力を利用しながら時計回りに体を開いて左から華麗にすくい投げ。立ち遅れているように見えながら最後は自らの形となって勝った。大横綱・双葉山が極めたとされる“後の先”だ。本人は「そんないいものじゃない」と否定したものの、類いまれな相撲センスを遺憾なく発揮。史上最速に並ぶデビュー6場所目での2桁勝利にふさわしい一番だった。

 「小さい頃から興味を持っていた朝青龍関とやっていた琴欧洲関。自分でもびっくり。信じられない」というが、前日の大関戦初挑戦での黒星を無駄にしなかった。通常より1時間ほど遅い結び一番前の取組だったため、支度部屋で鶴竜の調整法を観察。「大関は一度体を動かし、汗をかいてまた動く」とこの日の参考にした。また、前日の取組前に土俵だまりに座った際には稀勢の里が負傷した姿を見て「そんな甘いところじゃない」と気を引き締めた。駆け出しの自分ががむしゃらにぶつかるだけで勝てる訳がない。上位の壁を存分に痛感し「何か一つやれたらいい」と腹を決めた。それが“賭け”とも言える立ち遅れだった。

 新鋭力士の2桁勝利はこれまでも敢闘賞の対象となっており三賞は確定的だ。完売中だった遠藤イラスト付きストラップ(630円)はこの日に75個が国技館で再販売されたが、正午過ぎに売り切れ。午後に売店に来た女性ファンが「再入荷と聞いていたけど、なぜ!」と抗議する一幕もあった。そんな人気をよそに遠藤は「勝ち負けとかじゃなくて残り2日を乗り切りたい」と気を緩めるそぶりはない。ざんばらにして既に漂う風格。23歳が角界の看板となる日は近い。 

 ▽「後の先(ごのせん)」 戦前に活躍し、69連勝の不滅の記録を持つ不世出の横綱・双葉山が極めたとされる立ち合いの極意。立ち遅れたように見えながら最後は自分の形になり勝つスタイル。双葉山に憧れる白鵬も理想の立ち合いとして習得に励んでいる。

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