蒼国来が八百長問題勝訴、解雇は不当 現役復帰確実に

[ 2013年3月26日 06:00 ]

大相撲の八百長問題をめぐる訴訟で解雇無効の判決後、支援者と喜ぶ元幕内蒼国来の恩和図布新氏

 解雇された力士が再び土俵復帰する可能性が出てきた。大相撲の八百長問題で日本相撲協会を解雇された、元幕内・蒼国来の恩和図布新(オンワトウフシン)氏(29)=中国・内モンゴル自治区出身=が力士としての地位確認などを求めた訴訟の判決で、東京地裁(古久保正人裁判長)は25日、問題とされた取組で八百長があったとは認めず、解雇は無効と判断した。都内で会見した元蒼国来は現役復帰を訴え、代理人の小松初男弁護士も日本相撲協会に対し、訴訟の終結を要求。協会も控訴しない方針だ。

 約2年にわたる戦いの末に「解雇無効」の司法判断を勝ち取った元蒼国来の現役復帰が確実となった。関係者によると、日本相撲協会は、判決を覆すだけの証拠が乏しいと判断し、控訴を断念。4月上旬に臨時理事会を開き、一度協会を去った力士が土俵に復帰するという前代未聞の事態が決定する。早ければ夏場所(5月12日初日、両国国技館)での復帰が有力だ。

 相撲協会は弁護士ら数人による検証チームを発足させ、敗訴の要因となった八百長調査の不備などを調べるという。

 この日、力士の象徴でもあるまげを結い、淡い緑色の着物姿で出廷した元蒼国来は判決を聞くと「土俵に戻りたい。それだけです」と切実な思いを口にした。約50人の報道陣が集まった会見では「やっとこういう結果が出た」と安堵(あんど)の表情を浮かべ、相撲協会に対して「一日も早く相撲を始めたいのでよろしくお願いします」と現役復帰を懇願した。「(八百長は)やっていない。応援してくれた皆さまのおかげ」と述べた。

 元蒼国来は11年4月11日に協会から引退勧告を受け、2日後の期限までに引退届を提出せず、同14日に解雇処分となった。協会の特別調査委員会は、一連の八百長の仲介役だった元幕下・恵那司と元竹縄親方(元幕内・春日錦)の供述に基づき、元蒼国来が10年夏場所の春日錦戦で八百長をしたと認定。裁判でも「供述は信用でき、解雇は適法」と主張してきたが、敗訴を覆すだけの材料に乏しく控訴を断念した。

 元蒼国来は解雇後もジムでのトレーニングや社会人ラグビーチームの練習に参加するなどして体を鍛えてきた。134キロだった体重は減ってはいないものの「筋力は落ちている」と説明。今後、所属していた荒汐部屋の稽古に参加するかどうかは師匠の荒汐親方(元小結・大豊)と相談して決めるという。

 ◆蒼国来 栄吉(そうこくらい・えいきち=本名・恩和図布新)1984年1月9日、中国・内モンゴル自治区生まれの29歳。荒汐部屋に所属し、03年秋場所初土俵。10年初場所新十両。同年秋場所新入幕。最高位は東前頭13枚目。11年4月に八百長関与を認定されて日本相撲協会から引退勧告を受け、拒否したため解雇されていた。得意は右四つ、投げ。解雇時の体格は1メートル86、134キロ。

 ▼組織のコンプライアンス問題に詳しい関西大特任教授の郷原信郎弁護士 非常に適切な判決だ。今回の問題には事実認定と処分の重さという2つのポイントがあった。大相撲は一般のスポーツとは違う特殊な世界で、無気力相撲も「白か黒か」と二分法的に判断できるものではない。特定の力士を人身御供にして処分をするという当時の特別調査委員会のやり方にも問題があった。日本相撲協会はあらためて冷静に考え、他の力士についても処分の見直しを検討すべきだ。

 ▼スポーツ評論家の玉木正之さん 興行と神事を組み合わせた存在である大相撲は、そもそも「八百長はない」という建前の下で成立してきた。無気力相撲があったかどうかを証明するのは難しいのに、解雇することで八百長問題を終わらせようとした日本相撲協会の処分は荒っぽかった。筋の通った判決が出たことで、協会にとって大きな問題になっていくだろう。

 【蒼国来 訴訟経過】
 ▼11年4月11日 日本相撲協会が八百長関与で幕内・蒼国来に引退勧告。14日に引退勧告に応じなかった蒼国来を解雇。
 ▼22日 元蒼国来が解雇を不当として、力士としての地位保全などを求める仮処分を東京地裁に申し立てる。
 ▼6月9日 仮処分申請で相撲協会が元蒼国来に幕内力士の月給に当たる約130万円を1年間仮払いする内容で和解。
 ▼17日 元蒼国来が幕内力士としての地位確認などを求めて本訴を起こす。
 ▼12年7月19日 口頭弁論で元蒼国来が八百長を否定。
 ▼12月20日 結審。
 ▼13年3月25日 判決で元蒼国来の請求が認められ、解雇無効と判断。

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