指導者と選手対等なら「名前出して、訴えるべきだったのでは」

[ 2013年3月18日 06:00 ]

柔道界の問題について語った吉村前強化担当理事

全柔連 吉村和郎・前強化担当理事に聞く

 ――連盟からの予算で済ませられないのか?

 「選手の遠征は強化費だが、遠征先との関係を円滑にしたり、コーチが指導についてのミーティングを行ったりするところまではカバーできない。実際には必要なお金も多く、個人で年間100万円以上持ち出す(自費で賄う)者もいたし、限界があった」

 ――理事を退いた理由には、金銭の問題も含まれるのか?

 「それは別問題だ。選手に暴力行為などを告発された後、現場の監督、コーチだけに責任を負わせるのは、自分の中では許せなかったからだ」

 ――全柔連の第三者委員会やJOCの特別調査委員会の聴取は受けたか?

 「もちろん受けた。質問内容で選手の訴えの内容を知った部分もある」

 ――その内容とは?

 「“なぜ五輪の2カ月前にシャトルランをやったのか?”“7分×15本の乱取り(試合形式の練習)はなぜ?”など練習がきつかったという内容のものや、試合出場が多かったというものもあった。大人の選手たちに練習の意味を一つ一つは説明しない。疑問があれば聞けばいい。試合出場にしても、代表争いの中で1番手を追う立場の選手に、指導者は“チャンス”を与えたという感覚だった。試合で結果を出せば俎上(そじょう)に乗せられる。チャンスを与えない方が、指導として厳しいのではないか、と今も思っている」

 ――選手たちに今、伝えたいことは?

 「選手の意見を聞くのは時代の要請だろう。ただ“指導者と選手を対等に”と訴えるなら、名前を出して、生の声として訴えるべきだったのではないかと思っている。聞き取り調査の中で、ある選手に対する平手打ちの話が出てきたが、その選手は色紙に“先生はアメとムチが上手でクソーとなったあとにいつも好きって毎回なりました”と書いて、ロンドン五輪後に前監督に渡している。守られている立場では、訴えそのものが後付けに聞こえたのが、正直なところだ」

 ◆吉村 和郎(よしむら・かずお)1951年(昭26)7月6日、熊本県出身の61歳。柳川商(現柳川)―日大―警視庁。73年世界選手権ローザンヌ(スイス)大会軽中量級(現71キロ級)銅メダル。80年に現役引退し、柔道私塾「講道学舎」の指導者に。古賀稔彦、吉田秀彦らを育てる。86年から全柔連コーチ。96年に女子代表監督に就任。04年アテネ五輪では7階級中5階級を制した。06年から強化委員長を務め、12年11月から強化担当理事。2月5日、引責辞任。

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