吉田、父直伝「金」タックルで世界12連覇

[ 2012年8月11日 06:00 ]

<レスリング女子フリースタイル55キロ級決勝>五輪3連覇を達成した吉田沙保里は、父・栄勝コーチを肩車

ロンドン五輪レスリング

 吉田が霊長類最強の女になった。9日、レスリング女子55キロ級決勝で吉田沙保里(29=ALSOK)がトーニャ・バービーク(34=カナダ)を2―0で下し、個人種目では日本人3人目となる五輪3連覇を達成した。5月の国別団体戦W杯で4年ぶりの敗戦。不安の中で選手団旗手の大役を果たしながら、日本の期待に応えてみせた。五輪旗手の金メダルは00年シドニーの男子柔道の井上康生以来、3大会ぶり。吉田は世界選手権、五輪を合わせ12度目の頂点で「霊長類最強の男」と呼ばれたアレクサンドル・カレリン氏(44=ロシア)に並んだ。

 喜びの涙も、安どの涙も封印していた。「だって、最後は最高の笑顔で終わりたいと思っていたから」。側転、バック転を披露した吉田は、コーチ席に駆け寄ると、父・栄勝(えいかつ)さん(60)の前で膝を折った。3歳からレスリングを教えてくれた感謝を、肩車で伝えた。「パパ。重かった」。笑って振り返った吉田は「やっぱりこれ、やりたかった。自分(父)の行けなかった五輪で、ね」と感慨深げに目を細めた。

 北京五輪後、全日本のコーチになった栄勝さんも「こりゃ勝てないんじゃないの」と思っていたというロンドンの舞台。だが、吉田は違った。「前の日は初めて寝付けなかった。不安はあったけど、でも、試合になったらやるしかないっしょって」。エンジンが掛かったのは5月のW杯で苦杯を喫したジョロボワ(ロシア)との準決勝だ。片脚タックルで一方的に攻めての2―0。「怖いなという思いはあったけど、リベンジしたいって。両脚に行くと(相手に)いろんな攻撃があるけど、片脚なら返されないでしょ?」とまた笑った。

 世界が恐れたタックルは、抱えられて返される恐怖にさびつきかけていた。昨年の世界選手権決勝でバービークに返されて苦戦。「怖い」と何度も口にした。相手が反応しづらい近距離からのタックルにも挑戦したが、試したW杯でジョロボワに苦杯。栄和人監督が「トンネル」と呼んだ長く暗い道に入った。だが、その出口を教えてくれたのは父だった。「思い切り入るのが沙保里のタックル。基本に返ればいい」。バービークとの再戦となった決勝では、返し技さえ封じる豪快なタックルを決めた。

 「(北京で)北島くんが“何も言えね~”って言ったけど、こんな感じだったんだ」。不調に苦しみながら、日本選手団の旗手という大役を果たし、自らも最高の結果を残した。4試合で相手に与えたポイントは0。原点に戻ったタックルだけではなく、無理に攻めない「かしこい大人のレスリング」を展開した。成長しながら達成した世界選手権、五輪を合わせたV12は、スタンドから観戦したカレリン氏と並ぶレスリング界の金字塔だ。だが「このまま勝てるんなら、やってやろうじゃないのって感じ」と笑った29歳にとっては、伝説の1ページにすぎないのかもしれない。

 ◆吉田 沙保里(よしだ・さおり)1982年(昭57)10月5日、三重県生まれの29歳。全日本王者の父・栄勝さんの影響で3歳からレスリングを始め、ジュニア時代から全国タイトルを総なめ。99、00年世界ジュニア連覇。久居高―中京女大(現至学館大)―ALSOK。世界選手権は02年から9連覇。アジア大会3連覇。全日本選手権10連覇。01年から08年W杯でバンデュセン(米国)に敗れるまで通算119連勝、外国人選手に114連勝。得意技はタックル。両親と兄2人。1メートル56。血液型O。

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