元Vリーガー・藤崎朱里が“ラガール”になったワケ

[ 2011年2月16日 09:23 ]

女子7人制ラグビーチーム「Rugirl7」の藤崎朱里主将

 国内競技人口がおよそ1000人と普及が課題になっている女子ラグビー界にとっては、異例の企業支援型クラブ「Rugirl7」が昨年10月に誕生した。16年リオ五輪で正式採用される7人制ラグビーの女子日本代表選手の輩出と普及活動を目的に結成されたクラブだ。

 チームをまとめる藤崎朱里主将(ふじさき・あかり=26)は日本代表として活躍中。実は1年前までバレーボールのVチャレンジリーグ(Vリーグ2部)の選手だった。09-10年シーズンにはリーグMVPも獲得している。華々しい経歴を持つ彼女が“ラガール”に転じた理由とは…。スポニチアネックスが迫った。

 ジャージ姿で楕円球を脇に抱えて走る“皇居ランナー”を見かけたら、彼女が藤崎だろう。1メートル68の身長と分厚い胸板。失礼だが「たくましい」という言葉がよく似合うラガーウーマンだ。

 藤崎は複数企業が支援する国内初のチーム「Rugirl7」の初代主将。所属選手は就職の斡旋や昼食などのサポートを受けることができ、藤崎も支援企業の1社「購買戦略研究所」の社員として昼間は東京・丸の内のオフィスに通っている。

 ラグビー経験者の多い同社の社員は、藤崎のよき理解者だ。「完全に社内がラグビーに染まってるんですよね。ラグビーボールを飾っていたり。社員の方が応援してくださってるので、やりやすい。練習行ってきます!と言うと“行ってこい!”と背中を押してくれる」。

 藤崎の平日の業務は午前9時から午後3時まで。退勤後にすぐに個人トレーニングを行い、午後6時から合同練習というハードスケジュールを消化している。「オフはラグビーのDVDを見て動きを研究してるけど、大体は家に帰ったらお風呂入って、“お休みなさい”って寝ちゃう」とラグビー中心の生活だ。

 社内業務は主にチームのマネジメントで、週6回の練習のためにグラウンド確保や練習日程の作成などを行っている。「選手だけだったらわからなかった運営面がわかるので、すごく勉強になっている」。加入希望者や他競技経験者とのコンタクトをメールや電話でやり取りするなど“スカウト活動”にも精を出しており、チームの大黒柱としてフル回転している。

 藤崎がラグビーの本格的な転身を考えたのは、Vチャレンジリーグ「日立リヴァーレ」の選手時代だった09―10年シーズン終了後だった。大学時代から付き合いのあった大学ラグビー経験者のトレーナーに勧められ、練習に参加。走ることやキックなど色んな要素が含まれているから」とたちまち競技の虜(とりこ)になった。ずっと抱いていた「五輪に出たい」という思いは膨らむ一方。16年リオ五輪で男女7人制ラグビーが正式採用されたことも追い風になった。そして、2010年7月に所属チームを去る決意を固めた。

 「自分自身に挑戦したかった。今までやってきたバレーで培ったものを他の競技でどう生かせるのか。格闘技という選択肢もあったけど、チームが1つになることが好きだったので団体競技にこだわりたかった」。

 トレーナーの人脈を便りに、流通経済大グラウンドなどで男子部員に混ざって練習を重ねた。競技に本格的に取り組み、転身からわずか数カ月で日本代表入り。息つく暇なく階段を駆け上がった。

 10年11月の広州アジア大会でも代表としてグラウンドを駆け抜けた。大会終了後、関係者を通じ「Rugirl7」に正式加入、主将に就任した。

 チームの運営と主将、さらに日本代表の看板も背負う藤崎を癒してくれるのがコーヒーショップ「スターバックス」だ。「お店に行ってイスに座るだけで、ふぅ~と落ち着く」。お気に入りの漫画「ワンピース」(集英社)を読みながら"リーダー像"を学ばされることもあるという。表情を緩ませてこう語った。

 「感動する場面がいっぱいあるじゃないですか。1人でうわぁ~って泣いちゃうんですよ。(全巻を)2回くらい通して読みました。(主人公の)ルフィみたいなチームがいいなと思う。ああいうリーダーになりたいなと思う」。

 15人制も含め競技人口1000人というマイナーな女子ラグビーだけに、代表選手であっても慢性的な資金難が悩みの種。厳しい環境で競技を続ける選手が多い中で、生活面と練習環境の両方を複数企業がサポートする「Rugirl7」は魅力的な存在だ。

 面白いのはサポート内容。企業によって、日本代表に選ばれた藤崎への合宿費提供や、メンバーの就職斡旋、昼食提供など支援方法は様々だ。今後も「ジャージや用具も足りない」とさらなる企業の支援を募っている。用具の提供社が出てきた場合は、ロゴを入れるなどして会社を大会などでアピールしていく。練習環境においても今年3月に強豪国ニュージーランドからコーチを招へいし、チームの強化に務める予定だ。

 藤崎は言う。「ラグビーを選んだことが正しかったか、間違いだったか。それは結果が出ていないのでわからない。でも五輪までの5年は短いと思う。いま、ただ1つ言えること。後悔だけはしていない」。

 16年リオ五輪出場へ設けられたアジア枠はわずかに1つ。“ラガール”たちが日本代表として厳しい予選を勝ち抜き、南米の地で晴れ舞台に立った時、自ずと答えが導かれるはずだ。

 「Rugirl7」では、他競技出身者を含めて幅広く選手を募っており、藤崎の他にも、陸上の元中距離日本記録保持者など、身体能力に秀でたメンバーが続々と集まりつつある。年度内はチーム強化に専念するが、段階的に対外試合や大会にも出場していく予定だ。

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