90匹シロギズ上げてはい上がる コロナ退職、病気判明でどん底も

[ 2020年10月2日 15:50 ]

黙々と投げに徹した藤野さんは一荷                              
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 【根ほり葉ほり おじゃま虫ま~す】聞いてみないと分からないものだ。過日、葛西橋・第二泉水のシロギス船に乗った。ふと大ドモで一心不乱に投げを繰り返している人が気になった。そろりと隣におじゃま虫ました。(スポニチAPC・町田孟)

 藤野謙一さん(57=三鷹市)はコロナ退職者だ。飲食店スタッフ。都内に十数店舗を展開する会社の一つにいた。「そこはイタリアン系ですね」。今年の6月社長から呼び出しがあった。「当初はなんだろう?」で、まさか解雇とはつゆほども思っていなかった。「退職金と給料3カ月分」が提示された。

 がくぜんとすると同時に、会社の現状も理解できなくはなかった。飲食業は特にお客さん頼みだ。ただあてもなく店を開けても客足が戻る保証はない。まして系列化しているからなおさら厳しい。長年この業界に身を置いているだけに実情は理解できる。結局、条件をのまざるを得なかった。

 決断にはもう一つの大きな理由があった。昨年7月、同時に2つの病気が判明した。まず息苦しく体力的につらい日が続いていた。診断の結果は狭心症。すぐさまステントを入れる手術を行う。

 さらにそこで「バセドー病も判明したんです。足はむくむし、体重も10キロ落ちていました」。精神的に落ち込むことが多くなり、完全にうつ状態が続いた。 「ホルモン系の病気は精神的なダメージが大きい。自殺まで考えるほどでした」。幸い薬が適合したおかげで、現在回復している。負の連鎖はこれだけにとどまらなかった。病と前後するように母親を亡くしている。今年になっても叔母が熱中症でこの世を去った。まさに大殺界に陥っているようだった。

 「でも覚悟はできましたよ。人間、明日、いや30分後にどうなるかも分からない。どん底を味わったら今度は上がるだけですから」

 紀枝夫人(55)の反応はどうだったのだろうか。「小さな商売を始めようかって言ってますよ」。さらりと語る顔に夫婦の機微が見えた。

 はた目には追い込まれていながら趣味に興じるのは奇異に映るかもしれない。「ある意味、命の洗濯というか…」。多くの人から聞く言葉だ。しかし藤野さんの場合、背負っていることが大きいからこそ、より心に響く。

 釣りは囲碁とともに父親から教わった。「ほんとは碁の方をやらせたかったらしい。でも全くダメでね」。石ではなく竿を選んだことが、自らを救っているとも言える。実は藤野さんは一般的に見れば恵まれている立場でもある。「僕がこんな状態でも凌げるのは親が多少のものを残してくれたからですが…」。しかし、60歳手前で隠居とはいかないだろう。「子供が2人いて下の子は高2ですし、ローンも残っている」。厳しい現実に直面しているのも事実だ。「どんな仕事でもいいからやりますよ」。きっぱりと言い切った。地獄からの復活宣言は、ある意味釣りが手助けしたと言えなくもない。

 浮世を忘れた一日の結果は90匹。「全部置いて帰ります。釣れなかった人に配ってもらえれば」。去り際の一言に潔さがあった。

 ○…今回の釣行は外道狙いだった。ギマだ。例のヒレで立つ魚。ヌルをまとっていて嫌う人が多い。魚好きの友人は特に肝がいけるという。「食べたことがないの?」。あざ笑うかのような一言で火が付いた。で、挑戦となった訳。しかし、当日は船長の判断が「盤洲回避で木更津狙い」。4~5メートルの浅場でしか釣れないだけにお預け。今のところ幻の味になっている。

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