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感無量 カワマス“野外実習” フライフィッシング聖地の思い出に

[ 2019年10月12日 07:11 ]

中村さんの持つ水槽の中に入っているのはカワマス
Photo By スポニチ

 【奥山文弥の釣遊録】日光・戦場ケ原というハイキングで有名な湿地帯の中をゆったりと流れる湯川。ここは日本のフライフィッシングの聖地と呼ばれています。もともとは魚が全く棲息してなかったのですが、1902年(明35)、イギリス人貿易商のトーマス・グラバー氏(あの長崎のグラバー邸の)が指揮し日本で初めてカワマス(ブルックトラウト)が放流されました。

 実際の放流時にはグラバー氏の代理人としてハロルド・パーレット氏が立ち会い、作業をしたので、この放流の事業主をパーレット氏だと思い込み、その成果をたたえ、奥日光ではパーレットマスとも呼ばれます。その後の放流もあってカワマスは湯川に定着し、自然繁殖が認められるようになりました。最初の放流から100年たった02年、湯川は全面キャッチ&リリースルールになり、04年からは放流もやめました。今では自然繁殖した野生魚のみが棲息しています。

 釣っても殺さないので魚影は濃く、初心者でも釣果が得やすい川になりました。

 先月の禁漁間際には瀬野泰崇さんと中村渚さんと一緒に出掛けました。2人とも初めての湯川でした。偶然にもロッドは同じでユーフレックスJストリームの823(8フィート2インチ3番)リーダーはティムコの9フィート5X。ティペットはトルネードの0・6号でした。

 フライはいろいろ試しましたが、エルクヘアカディスへの反応は多くの人が使うからかイマイチで、ごく普通のパラシュートタイプにヒットがありました。最初に釣ったのは中村さんでした。

 「こんなにきれいな魚が、こんなに素敵な場所で釣れるなんて幸せです」と感動していました。一方ちょっと出遅れた瀬野さんは「フライフィッシングを始めた当初から憧れていた魚にやっと出合えました」と感無量でした。

 私はこの春新調したメードイン羽村(私の地元)のローヤルリバーというバンブーロッド(竹竿)に入魂です。魚は苦労なく釣れるのですが、大変だったのはあいさつでした。川に沿った木道を歩いていると「こんにちは、釣れますか?」と小学生の団体が次から次へと声を掛けてきます。私たちもそれに返答するわけですが、軽く100回は超えるものでした。

 川と木道が近い場所で釣れたりすると、「おお、釣れた瞬間が見られた。ラッキー」と大騒ぎ。そして「その魚はなんですか?」とかいう質問が来ます。引率の先生もこのカワマスなる魚を知らないので、私たちが水槽に入れて写真を撮る際に、理科の野外実習だと思って見せてあげました。カワマスの特徴は背びれに亀裂のような黒斑があることです。

 「自然ガイドブックにも載っているカワマスですよ」と。これには先生も生徒も大喜び。また釣り方はフライフィッシングというのだと説明しました。いつか彼らが大人になった時、日光湯川でフライフィッシングを見たことがあるという思い出や、あるいは「いつかフライフィッシングをやってみたい」と思うかどうか分かりませんが、イメージをつけておく努力をしたつもりです。
(東京海洋大学客員教授) 

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