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2人の距離を縮めた「イカ墨Tシャツ事件」 千葉県勝山・庄幸丸 庄司理絵さん

[ 2018年8月27日 07:17 ]

 【釣り宿おかみ賛】千葉県勝山・庄幸丸の2代目女将が庄司理絵さん(44)。夫で当主の徳勝さん(49)とともに、先代の剛さん(75)と紀子さん(78)が始めた釣り宿を継いでいる。そんな2人の恋のキューピッドは、スルメイカだった!?(入江 千恵子)

 「結婚したら、田舎に住む」。子供のころ、理絵さんは母にそう言っていた。理由は「将来、自分の孫が夏休みに帰省できる田舎があったほうがいいから」。想像力が豊かな子供は、内房の漁村に嫁ぎ、夢を実現した。

 1974年(昭49)7月、千葉県市川市で生まれた。脱サラした父はシステムエンジニアとして独立。専業主婦の母と弟の4人家族で、「父がいつも家にいるのが普通だと思ってました」と振り返る。両親が買ってくれた「怪盗ルパン」を読んで以来、本が好きになった。どこに住んでいても「本屋さんがあれば幸せなんです」。

 中学生になると絵を描くことに夢中になり、進学した女子高では漫画研究会に入部。だが描くことは部活の時間だけにとどまらず、「授業中は教科書にパラパラ漫画を描いてました」と笑みがこぼれる。

 卒業後、輸入高級ブランド品の検品や在庫管理をする仕事に就いた。始発で出勤し終電で帰る激務だったが、いつも元気な理絵さんに上司は「おまえは威勢がいいから、嫁に行くなら八百屋か魚屋だな」が口癖だった。

 そして29歳になる直前。「人数が足りないから」と上司に誘われて参加した釣り会で事件が起こる。舞台は庄幸丸。初めてのイカ釣りに加え、船酔いしている理絵さんを見かねて面倒をみてくれたのが徳勝さんだった。

 ようやく掛かったスルメイカを釣り上げた瞬間、イカが徳勝さんの真新しい白のTシャツに墨を吐いてしまったのだ。「下ろしたてだったのに…」。徳勝さんのつぶやきが漏れた。

 だが男女の出会いは、何がきっかけになるか分からない。理絵さんはおわびのために買った新しいTシャツを渡すため、再び庄幸丸へ。そこでお互いの連絡先を交換してから、2人の距離は会うたびに縮まっていった。「イカ墨Tシャツ事件」から9カ月後、勝山にウエディングベルが鳴り響いた。

 「結婚はタイミング」と話す理絵さんだが、父からは「結婚するなら一生、一緒にいられる人を選ぶんだよ」と常々、言われていたという。

 徳勝さんに理絵さんの好きなところを聞くと、顔を赤くし「うーん、いや…」と普段から少ない口数がさらに少なくなった。「お酒を飲むと口数が多くなるんですけどね」と理絵さん。アルコール燃料を入れておいてもらえば良かったと後悔した。

 のちに長女・亜里紗さん(13)、次女・美咲さん(11)を出産。現在も女将業と子育て、近所の割烹(かっぽう)料理店「なぎさ」でのパートと大忙しの毎日だ。

 最近、お客さんから「釣った魚の下処理や調理をしてもらえないか」という問い合わせが増えてきた。「これから、食品衛生や調理師の免許が取れたらいいですね」。すでに理絵さんの中で将来の女将像が描かれている。



03 ▼釣況 東日本釣宿連合会所属、勝山・庄幸丸=(電)0470(55)3005。

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