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【さくらいよしえ きょうもセンベロ】青春王道 思い出に酔う

[ 2015年11月13日 05:30 ]

「鎌倉酒店」江古田店の外観
Photo By スポニチ

 11月は“学祭”の季節。センベロライター・さくらいよしえが訪れたのは母校がある東京都練馬区の江古田。学生街の立ち飲み「鎌倉酒店」でサダハル店長オススメの焼酎の杯を空ける。ほろ酔ううちに、青春をおう歌していた“あの頃”へ思いがセンチメンタルジャーニー…。

 約20年前、わしは憧れの大学「日芸」で、「悟空の群れ」になっていた。先輩が「走れ!」と叫ぶ。その他大勢の悟空らと駆け回る。群れにセリフはない。この妙な行事、日芸運動会の花形は、学ラン応援団と美形ぞろいのチアガール。著名人の子息や、すでに“デビュー”している華やかな同輩の中、上京者で工業高校出身のわしは地味過ぎた。

 「鎌倉酒店」は、そんな母校の江古田にできた立ち飲みだ。名物は和歌山の仕込み水で寝かせた前割りの麦焼酎。ふわんとした麦の甘い香りが優しい。

 赤ワインと豆板ジャンの牛スジ煮に、備長炭で焼く串は90円から。「毛を1本ずつ抜いて下ごしらえ」したぼんじりが実にうまい。

 焼き台でワイルドに塩を振りかけているのは店長・貞治38歳。貞治は王貞治が本塁打756号を達成した日に誕生。ホームラン王の宿命を背負わされた貞治は、「もとは常連客。開店の呼び込みのコがかわいかったから(笑い)」。

 勤務先も住まいも江古田の貞治だったが、会社のプロジェクトが頓挫、悩みあぐねている時に当店社長からスカウトされる。実家が中華料理店で少年時代から料理好き。それならばと発起、経営が傾いていた江古田店のレイアウトをまず変えた。

 客が来る。「どぞ~」と大きな手でポジショニング。内野も外野も常連が固まらず程よく隣と語らえる絶妙な采配。また日替わり料理も投入。「きょうは豚バラ野菜の、豚四姉妹」。ネーミングも頑張る。「本日鯖(さば)あり」。魚介好きのために鮮魚の隠し球も。かくして新監督は、既存のルールをぶっ壊し1年で球団を盛り返す。

 貞治いち押し、ウイスキーと麦焼酎の特製「鎌倉ハイボール」に酔いながら大学メモリーに思いをはせた。

 歌舞伎愛好会では、「捕り手その1」という役と、「下女およし」という役をもらえた。セリフがあった。捕り手仲間の友もできた。アングラ劇場みたいな古いスナックが好きで、顧問のキープボトルを、こそこそ飲みながら既存の伝統文化をぶっ壊す漫談を考えた。ウケなかった。

 脇役専門のわしが、今は同窓会幹事だ。次の0次会はここと決めた。貞治が言った。「そういえば、地元じゃ“江古田の墓場”と名高いあのスナック、もうなくなるんですよ」

 墓場の青春…。甘い肉汁の和歌山産ステーキを奥歯でかみしめた。(さくらい よしえ)

 ◇鎌倉酒店江古田店 本店は中野にある。前割り焼酎のほか梅酒も人気。オリジナルの「ばばあの梅酒」(380円から)は20種類ある。かめ出し焼酎は380円から。持ち帰り用で量り売り(100ミリリットル94円から)も。ほかにワイン、日本酒もある。日芸、武蔵、武蔵野音大がある学生の街だから月、水、金曜日の午後4時から8時までドリンクがすべて300円になる「学割サービス」があるが、「あまり利用する人はいない」(笹森貞治店長)とのこと。東京都練馬区栄町3の5。(電)03(3557)8001。営業は午後4時から深夜0時。日曜日は午後3時から午後11時。年中無休。

 ◆さくらい よしえ 1973年(昭48)大阪生まれ。日大芸術学部卒。著書は「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)、「今夜も孤独じゃないグルメ」(交通新聞社)「にんげんラブラブ交叉点」(同)など。最新刊は「りばーさいど ペヤングばばあ」上巻(小学館)。

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