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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】東京都三鷹市 信頼できる友達のような心強さ

[ 2019年5月24日 12:00 ]

季節ものの香味そば。大葉、水菜、大根の細切りがたっぷり
Photo By スポニチ

 人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。「あのお店、おいしかった?」と聞かれて「普通」と答えたこと、みなさん一度はありますよね。パッとしない言葉ですが、「普通」って実は凄いことなんです。本当の幸せとはなにか?そんな深いことまで考えさせる創業86年目のお店です。

 生まれ育った、地元三鷹の店だ。店紹介の写真としては、入り口あたりを切り取って大きく見せたほうがわかりやすいだろう。でも「ジャケ食い」的には、あえて全体像として見せたい。

 向かって右手の方が、ものすごく鋭角に細い。そこのところに花のポットがあるのがかわいい。ゆがんだ四角形の店舗だ。

 この店はすごく昔からあって、その存在は十代の頃から知っていたが、地味でずっと通り過ぎていた。ごく普通の、町のそば屋。

 でも中年になって、この店の地味さ、普通さ、渋さが気になって、入った。見た目通り、実に普通だった。本格手打ちでもなければ、カレーライスや丼物もある。出前もやっている。だが、それが何となく居心地良くて、ごくたまに入るようになった。
 それから、この写真のように、店構えがきれいになった。いや、前が汚かったわけではないが、木造で古びていた。形は一緒だ。

 そしたら、新しい暖簾(のれん)に「昭和九年創業」と書いてあって、ビックリした。そんな老舗だったのか!全然そういう感じがしない。ごく普通を、淡々と、なんと今年で86年目!

 お昼前か、午後2時ごろのすいている時間に行くのが、今やボクは大好きだ。

 瓶ビールを頼むと、柿ピーと、切り干し大根がついてきた。お昼の日差しが柔らかく入り、すごく風情ある。金魚鉢。鉢植え。スポーツ新聞。絵本。さりげないそんなものが、みな、静かにいとおしく輝いて見える。

 ひとり客のおじさんが、文庫本を読みながら、冷やしたぬきそばをすすっている。

 ボクは今回「香味そば」を頼んだ。大葉や水菜や大根の細切りがたっぷり入って、あぶった油揚げが細く切って乗せてある冷たいそば。少しだけゴマ油がかかっていて、その具合もいい。季節もので、実においしい。少し前は、セリそばがあった。これも大好きだ。

 おなかがすいていた時にきた時、肉そばとミニカレーライスのセットを頼んだ(日替わりセット)。どちらも、昔ながらの普通味が、なんともやさしい。

 若い時は、新しいもの、すごいもの、食べたことないウマイものを、ひたすら追いかけ、喜びがちだ。しかし、本当のしあわせとは、毎日が淡々と、変わりばえなく、いつもの料理を食べて、普通に暮らせることなのだ。それに気づくのは、己の老いを感じ始めてからだ。

 この店は、その事実を、静かに表している。信頼できる友達のような、心強い店だ。

 ◆味多香庵 東京都三鷹市下連雀3の16の11。JR三鷹駅から徒歩5分。1934年(昭9)創業で、現在3代目。香味そば700円。(電)0422(43)4619。営業は午前11時~午後8時半ラストオーダー。火曜定休。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローさんとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

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