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【さくらいよしえ きょうもセンベロ】サインが記すレトロのしるし

[ 2019年1月11日 12:00 ]

手際よく注文をさばく勉さん(左)と綾子さん(撮影・森沢裕)
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 おかずはそのまま酒のアテに。飲んべえにとってうれしい町中華。センベロライター・さくらいよしえが出掛けたのは東京都北区赤羽。「支那そば 大陸」は昭和レトロの雰囲気いっぱい。テレビドラマなどのロケ地としても有名だった。

 わしは日夜、サインの練習をしている。著書を人に渡す時は、さりげなく強引にサインを書く。だが色紙に求められたことはまだ、ない。

 飲める町中華「大陸」にはさん然と輝くサインコーナーがあった。

 香取慎吾、新垣結衣、黒木華、超達筆な筆文字は船越英一郎。そうそうたる顔ぶれが店に撮影で訪れた。昭和レトロなたたずまいは、セットじゃ醸せない深みがあるからだろう。 

 「船越さんは気さくでしたよ。壁を指で撫でてホコリチェックしてたけど」とにこやかに名優の素顔を明かすマスター。

 「あとマギー司郎さんや林家ぺーさんは普通に食べに来てくれる」。いつ有名人が来てもいいよう「色紙は常に用意してるの」と奥さま、やる気満々。

 厨房(ちゅうぼう)では仕込みがちょうど終わったところ。「チャーシューは、2時間寸胴(ずんどう)で煮込んで、1時間しょう油に漬け込むの。ラーメンのスープは肩ロースに鶏ガラ、豚足なんかいろいろ入れてね。全部、修業時代に習ったままですよ」

 人気料理は「玉子くずし」(ザーサイと卵炒め)に、豆腐をラー油で炒めた「激辛からし焼き」(→辛くない)。「どれも修業先で覚えた料理」と謙虚なマスターだがこの道50年の半生を聞きつつ町中華のフルコースをいただく。

 「新潟の中学を卒業してすぐ、地元の工場に就職したの。給料は全部実家に入れてね。でも母親が、このままじゃ自分のお金がたまんないから東京行って働けって。本当は花が好きで花屋になりたかった。でも花じゃ食べてけそうにない。で、ラーメン屋」。そんなマスターが、奥さまと出会ったのは働いていたラーメン店だ。

 「私は妹に誘われて行ったの。愛媛出身だからラーメンを食べたことなくてスープの黒さに驚いた」

 人生初のラーメンがハートにストライク、やがて2人は結ばれる。

 「実家が鉄工所だったから自営は嫌でしたねえ」と言う奥さま。独立した当初は、赤ん坊を抱え深夜2時までフル稼働した。

 「真面目にやってきただけよね」

 シメには煮干しががつんと効いた看板の「支那そば」。そのうまさに悶絶(もんぜつ)しながら、サインの中に似た筆跡があるのに気づいた。

 「黒木さんと新垣さんのは私が描いたの。描いてもらえなかったから」

 名ロケ地、1周回ってありがたい?“直筆”サイン。そこに宿るのは夫唱婦随の愛の形か。わしのサインもぜひ1枚。 (さくらい よしえ)

 ▽支那そば 大陸 店は店主の亀山勉さん(72)、妻の綾子さん(73)と次男の仁さん(47)で切り盛り。“町中華”の王道を行く、正直で丁寧な仕事で提供される料理はいずれも安くておいしい。イチ推しの「支那そば」(550円)は毎日食べても飽きがこない懐かしい味だ。半チャーハンとセットで680円。お得だ。毎月4と17日は350円で提供される。東京都北区赤羽1の49の9。(電)03(3902)8309。営業は午前11時から午後3時。午後5時から10時半。日曜日定休。

 ◆さくらい よしえ 1973年(昭48)大阪生まれ。日大芸術学部卒。著書は「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)、「今夜も孤独じゃないグルメ」(交通新聞社)「きょうも、せんべろ」(イーストプレス)など。

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