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【さくらいよしえ きょうもセンベロ】巧みに老舗支える4人の匠の技

[ 2018年12月14日 12:00 ]

「酒蔵十字屋」が誇る“4人の匠”(左から)中華担当の古澤勝男さん、焼き鳥担当の高柳啓一郎さん、ママの本多房子さん、一品料理担当の田岡俊一さん、刺身担当の北山勇さん(撮影・西海健太郎)
Photo By スポニチ

 北風に吹かれて師走の街へ繰り出した“センベロライター”さくらいよしえ。訪れたのは、昭和の香りが色濃く残る川崎市溝の口の「酒蔵十字屋」だ。そばには、創業47年の老舗の厨房(ちゅうぼう)を支える4人の匠(たくみ)がいた。

 先日、占い師に「あなたは、死ぬまで働く運命」と言われた。そもそもフリーの物書きだ。「上等です」と大見えを切った。しかし、内心憧れてやまない言葉は、「終身雇用」。

 さて。今宵(こよい)訪れたのは、黄色いハイサワーののぼりが揺れる下町の老舗。1階だけで席数70人超の大店(おおだな)だが、どこからともなく人が押し寄せ満席になる。まるでからくり屋敷だ。

 見逃せないのは、枡(ます)酒も生ビールもハイサワーも店の元気なおばちゃんらが「おととと」とモッキリで運んでくる景色。

 こちらも「おととと!」とグラスからあふれる愛を慌てて受け取る。

 料理は和洋中何でもあるが、本業は創業昭和36年のスーパーだから、豊洲市場直送の魚介が安くてうまい。まずは刺し身の8点盛り。舟盛りで出てきたのに胸が躍る。マグロやタイに連れと静かに競い合いながら手をのばす。

 続いて看板料理の「見てビックリ食べて納得!キャベツたっぷり お好み焼き風十字屋焼き」。これは従業員のアイデア料理で殿堂入りを果たした作。

 標高10センチはあろうかと思われる“生キャベツ山”に薄焼き卵のベール。その内側にソーセージが潜んでいる。

 そして評判の自家製ギョーザ。これは銀座アスターで働いていたという料理人による上品な肉だねがつまった一品だ。あっという間にテーブルが万博みたいににぎわった。

 「うちには“溝の口B級グルメ4人の匠”がいるんですよ」と2代目。

 幼い頃、お小遣いをもらっては、界隈(かいわい)の焼き鳥屋やギョーザ店を訪れ、大人に交じりながらタレやネタの違いがわかるほど舌を肥やしたという、生粋の溝の口グルマンだ。

 そんな2代目が信頼をよせるのが、刺し身名人に卵焼きの鬼才、中華の巨匠、そして4人目は、元スーパー従業員で定年後には当店で再雇用となった、焼き鳥の鉄人だ。

 鉄人は今日もぴっちりバンダナをしめ、のべつまくなしに焼き台で串を返す。横顔は輝いている。

 「あきないはあきちゃいけない」というのは、大変な働き者だったという初代の名言。オオバコ酒場ならではの穏やかな喧騒(けんそう)の中、わしらも飽きることなく“モッキリ”のお酒をお代わりする。「おとと〜」おばちゃんたちの躍動も止まらない。ほろ酔いながら思った。永久就職するならこんな店。(さくらい よしえ)

 ▽酒蔵十字屋 創業は1971年(昭46)11月19日。徒歩5分ほどのところで“本業”のスーパー「十字屋商店」も営業中。3代目社長は本多藤治さん(53)。母親の房子さん(77)は、居酒屋の看板女将である。午後4時から7時まではタイムサービスでウーロンハイ、緑茶割りなどが200円。カウンターで一人飲みを楽しむ常連さんも多い。神奈川県川崎市高津区溝口2の6の13。(電)044(822)5586。営業は午後4時から11時。日曜日定休。

 ◆さくらい よしえ 1973年(昭48)生まれ、大阪府出身。日大芸術学部卒。著書は「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)、「今夜も孤独じゃないグルメ」(交通新聞社)、「きょうも、せんべろ」(イースト・プレス)など。

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