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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】看板に偽りなし!草原に広がる味の理想郷

[ 2017年8月25日 12:00 ]

看板のまわりに控えめに這ったツタ、小さな鉢植え…。丁寧に世話されている様子から、素朴で裏切らない味を確信!
Photo By スポニチ

 人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。飲食店の名前で昔から不思議に思っていたのが「はせ川」とか、店名の一部がひらがなになっている店、ありますよね。決まって、高級な和食系で。でも、久住さん。長野・上諏訪で「草げん」という名の大衆食堂、見つけちゃいました。

 上諏訪を歩き回って見つけた。観光地の飲食店は月曜定休日が多い。上諏訪もそうだった。蕎麦(そば)屋はやっている店が多かったが、信州そばは前日食べた。この日の昼は焼きそばが食べたい気分だった。

 暑い日で汗をかきかき、駅周辺を歩き回り、やっと見つけたのがこの店。遠くで「氷」の文 字が風にヒラヒラはためいていた。近づいて、ジャケット(店構え)にピーンときた。

 「草げん」という名前がいい。「そうげん」と読んでいいのだろうか。小学生が作文で「草原」と書こうとして原の字を思い出せなかったような平仮名遣いだ。看板の周りに控えめに這(は)ったツタも風情。店前の小さな鉢植えもいい。よく見ると、丁寧に世話されているのがわかる。

 「和洋・中華・焼肉・定食」とある。大丈夫だ。焼きそばもきっとある。「大衆御食事処」という言葉も昔っぽくていいじゃないか。季節もので冷やし中華もやっているようだ。それもいいな。その後ろには「お食事とお酒の店」と書いてある。夜は居酒屋的にもなるのか。

 なぜか諏訪で「姫路城」の暖簾(のれん)をくぐって入店。4人掛けのテーブル席2つと、小上がり座卓が3つ。

 テーブル席に着き、メニューを見る。看板に偽りなし。ラーメンからトンカツから焼き肉からカレーライスまである。普通のカツ丼の他にソースカツ丼があるのは、さすが長野。諏訪湖だからワカサギフライもある。

 単品で「ジコボウおろし」という聞いたことのないものがある。なんだろう?と、今これを書きながらネットで調べたら「ハナイグチ」というキノコの長野での呼称だった。

 壁のかき氷のメニューの上に「おかげ様で御好評のなつかしい支那(しな)そばと餃子(ギョーザ)です」と手書きで書いてある。それを見て思わずビールと餃子を頼む。

 お通しにキュウリとシソとミョウガの漬物が出た。さっぱりしておいしい。火照った体に、ビールの友として申し分ない。

 そしてやってきた餃子がよかった。5個390円。小ぶりながらパンパンにタネが詰まっていて、断面がほとんど円だ。それゆえ、鉄板に接していた焦げた面積が狭い。食べたら、見た目通りのぷりぷりで、口に噴き出す肉汁がウマイ!何かウチでは使わない中華系スパイスの香りがかすかにする。しかも焼けた皮に硬いぐらいのパリパリ感があり、これがまた口の中でたまらない。書いていて今また猛烈に食べたくなってきた。先客の老夫婦ふた組も4人前頼んで、ビールも飲まず食べている。その人たちの会話のテンポがのんびりしていて、気分がゆったりした。

 そして焼きそば(900円)。これが大当たり。キャベツ・ピーマン・ニンジン・きくらげ・もやしと豚肉がたっぷり入ったソース焼きそば。ベタベタもせず、しょっぱくもなく、このソース感が絶妙。麺の具合もよくて、一見、ちょっと量が多いかなと思ったが、ぐいぐい食べられて、気がつけば完食。ビールを飲むのも忘れていた。ボクはこういう焼きそば、理想かもしれない。お皿もなんだかかわいいじゃないか。付いてきたスープもおいしかったから、ラーメンも期待できる。

 ジャケ食い、今回も大正解だ。味が外見を裏切らない、大衆的で、素朴で、しかし丁寧な料理の店だった。ごちそうさま。

 ◆草(そう)げん 1966年(昭41)創業の食堂。店名のひらがなは店主の名前から。餃子、焼きそば、若どり仙人揚定食(1000円)など「いろいろ工夫した調味料が決め手。夫婦2人で子供を育てるため懸命に働いてきたら51年たっていたね」とご主人。ジコボウはボイルしており「マツタケよりうまいよ」。長野県諏訪市末広1の13、JR上諏訪駅から徒歩5分。(電)0266(52)1834。営業は午前11時〜午後7時30分。火曜定休。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローさんとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

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