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【さくらいよしえ きょうもセンベロ】個人軍は紳士たれ

[ 2017年8月18日 12:00 ]

生ビールを注ぐ時田裕子店長(左)と宮内真里奈さん
Photo By スポニチ

 中央線沿線に良店アリ!酒場3000店斬りの“ツワモノ”ライター、さくらいよしえが訪れたのは荻窪の立ち飲み「つまみや」。100円玉を並べて盛夏の夕に杯を重ねて…気がついたのは店で気高く飲み続ける紳士同盟!なんてね。

 「“ニューカヤバ”で我々のハートをつかんだあの夢の自販機を見つけたんです」。編集・K原氏が興奮気味に言う。それは、100円玉を入れるとジャーっとグラスに酒が定量注がれるサーバーだ。茅場町の「ニューカヤバ」ではレトロなマシンが有名だが、今リバイバルブームが起きているらしい。

 今年1月誕生した立ち飲みの「つまみや」は、老舗レストランの居抜きだ。奥行きのあるカウンターに、ゆったりソファのテーブル席もあり、立ち飲みとはミスマッチのエレガントな内装が面白い。

 その中で、ちんまりした存在感を醸す焼酎の自販機は、甲類の「キンミヤ」は60ミリリットル、「大樹氷」は70ミリリットルが100円と、とってもお得だ。それに、コダマシリーズやホッピーなど好きな割り材を選び、つまみをキャッシュオン&デリバリーする。

 アテがまた安い。最安値のわかめポン酢100円を筆頭に、河岸から仕入れるまぐろ漬けに、ニンニクと塩こしょうをきかせたパリパリジューシーなとり唐揚げなど、どれも300円。わしらはじわじわテンションが上がった。

 しかし、ふと常連らのノーブルな空気に気がついた。店内は、まるでビジネスクラス以上の乗客が集う空港のラウンジさながら。酔いどれる人も大声で盛り上がるやからもいない。

 1等ゾーンとおぼしき、店主のお姉さんの真ん前で、おじさま方は白樺(しらかば)のごとく背筋を伸ばし、お飲みになっている。店主をなれなれしく、「ママ」とか「おかみさん」と呼ぶ人ももちろんいない。

 「12年間、会社の事務職だったんです。子供も大きくなり、“好きなことしたら”と。いろんな人にお力を借りて念願のお店を始めました」と語る。

 どおりで瞳が澄んでいた。夜に濁っていなかった。清らかな店主とラウンジを、ファン1期生のおじさま方がきっとお守りになるのだろう。紳士同盟だ。

 と思ったら、自販機コーナーと行き来を繰り返すK原氏が、「ね、ママは重量挙げの三宅宏実に似てるって言われない」と浮かれて軽口をたたいていた。「似てるよう。大きなお子さんがいるなんて見えないし〜」。わしらの一角だけがエコノミー感丸出しだった。(さくらい よしえ)

 ◆つまみや 居酒屋激戦区の荻窪の隠れ家的な立ち飲み。御年四十ウン歳の“爽やか系”時田裕子店長と、スタッフの“ミステリアス系”宮内真利奈さんで切り盛り。2人の息の合った仕事ぶりも見ていて心地よい。自慢の牛すじ煮込みなどおいしい料理や酒は格安。自販機の焼酎のほか、酒、料理ともにキャッシュオンデリバリー。東京都杉並区荻窪5の29の11、プラザいなば1F。(電)03(3393)7613。営業は午後4時から11時。年中無休。

 ◆さくらい よしえ 1973年(昭48)大阪生まれ。日大芸術学部卒。著書は「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)、「今夜も孤独じゃないグルメ」(交通新聞社)、「にんげんラブラブ交叉点」(同)など。

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