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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】埼玉・飯能「住田屋」昔懐かしザ・王道ラーメン

[ 2017年4月28日 12:00 ]

埼玉・飯能市にある住田屋の外観
Photo By スポニチ

 人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。埼玉県飯能市で偶然見つけた食堂「住田屋」。後で調べてみると江戸時代から154年続く“文化財”級の老舗と知りビックリ。そしてもっと驚いたのは訪問直後に入ってきた「閉店」情報。外観も内観も味もレジェンド級。このジャケット、何とか残せないものか――。

 埼玉の飯能を歩いていて発見したのがこの店。

 この連載「ジャケ食い」は、昔、聴いたことがない輸入盤のLPレコードをジャケットだけ見て買っていたことになぞらえて、知らない店を店構えだけで判断して、何の情報も見ずに入って食べる企画だ。

 だから店構えがジャケットなのだが、この店の場合、ジャケットというより「ボックスセット」の様相を呈している。CD10枚組みとかの。通販で売っている「永遠のスクリーンミュージック大全」とか。つまり、店の表だけでなく、建屋全体で立体的に何とも言えない雰囲気を醸し出しているのだ。

 木造の焦げ茶色の壁。2階の木枠の窓。木目の浮いた板の目隠し。大きな屋根。建屋全体のシルエットがいい。何と言っても、てっぺんがH形の銀色の煙突が凜々(りり)しいじゃないか。

 緑の路上看板に「食堂 住田屋」、赤い看板に「ラーメン」。メイン看板は白地に「住田屋」。

 のぼりと張り紙に「つけ麺」とあるが、おそらく開店当初はメニューになく、近年始めたんだろうと思いたくなるほど、古い店に思える。

 飯能には別の用事があったので、帰りに入ろうかなと通り過ぎて、少し歩いてから「いや待て。地方のこういう店は案外早く終わって、夜の部も何時からかわからないぞ」と思い、戻って入ることにした。

 だが、どこにも「入口」と書いてない。「営業中」のプレートも出てないし、のれんもない。やっているのか。

 ジャケットをもう一度よく見る。おそらく右半分が厨房(ちゅうぼう)で左が店内だろう。その真ん中の戸を押して入るのかなと思ったが、そこには郵便受けがあるから店の人の出入り口かもしれない。左手の引き戸を恐る恐るカラカラと開けた。すると、食べているお客さんが何組かいるじゃないか。よかった。

 だがなんと、のれんが中に入っていた。昼の部、終わってるのか。厨房から出てきた店のおばちゃんに「いいですか?」と聞くと「どうぞ」と笑顔で答えてくれた。のれんは風が強いから入れていたのか。

 テーブルにつき、瓶ビールが見えたので、とりあえずこれを頼んで店内を鑑賞する。それにしても昔懐かしい店内の雰囲気。コンクリートの床に、8人掛けのテーブルが3つと2人掛けのテーブルが2つ。間隔がゆったりめなのがいい。

 厨房との間の、はめ殺しに見える木枠のガラス窓、そして、その下の料理を出すであろう磨(す)りガラスに縦格子の小窓が素晴らしい。

 「お食事」と染めてある白の木綿ののれんも洗いざらしで、ピンと張っていてとてもきれい。この店はきっとおいしい、と思った。

 こういう店の常でマンガが置いてあるが、なんとそれが復刻版の「のらくろ」。古すぎ。ゴッホやフェルメールの複製画とおそらく孫の写真、武者小路実篤の色紙とマリリン・モンローの写真という壁の混沌(こんとん)も歴史を表している。古そうなバイクのおもちゃも飾ってある。誰の趣味だろう。

 奥には大きな液晶テレビ。エアコンもあるが、天井に回転式の天井用扇風機。これも古そう。エアコンなき時代も長かったと思われる。やはり老舗なのだ。お客さんはほとんど地元の人と思われる。全員麺類を食べていて、若者はつけ麺が多かった。見た目、今風のつけ麺。厨房にいるのはおそらく旦那さんだろう。夫婦二人で切り盛りしているようだ。

 メニューは、ラーメン、つけめん、からし味噌ラーメン、たんめんという麺類があり、野菜炒め定食と焼き肉定食とチャーハンというご飯ものもある。だが黒いプラスチックのメニュー短冊にはたくさんの裏返ったものもあり想像するに昔あって今はやっていないメニューもたくさんあると思われる。

 ボクは初めてなので、ラーメンを頼んだ。待っている間にも、客が入ってきたが、麺がなくなったと断られていた。ギリギリセーフだ。戻って入ってよかった。

 やってきたラーメン。この匂い、懐かしい!具はナルト、メンマ、小さなチャーシューと正方形の海苔(のり)に刻みネギ。昔のラーメンだ。レンゲでスープをすする。わー、これは昔の味。次に麺もすする。あー、これも昔の麺。こんなんでいいんだよ、ラーメンは!いつからそんなにエラそうになったんだ。おいしい。懐かしさがおいしさを内側から輝かせる。こんな店で、こんなラーメンが食べられて、本当によかった。一杯500円のシアワセだ。

 ところが、今月に入って「閉店したらしい」との情報が!ボクが訪問したのが先月19日。電話しても鳴るけどつながらない。後継ぎの問題だろうか。「この建物を何とか残して」という地元の声もあるという。

 ◆住田屋(すみだや) 1863年(文久3年)創業。市の日にうどんなどを食べさせたのが始まりで、料理屋を経て食堂に。店主は6代目で、銀座のレストランや大阪の割烹(かっぽう)で修業を積んだ確かな腕で、ラーメンやつけめん、オムライスなどを提供してきた。埼玉県飯能市仲町21の23、西武池袋線飯能駅徒歩8分。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローさんとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

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