コロナ禍で表面化した「昭和おじさん社会」 日本が脱却できなかったワケとは

[ 2020年8月4日 06:00 ]

 新型コロナウイルスの脅威が日本を襲ってから半年が過ぎた。感染は再拡大し収束の兆しは見えてこない。経済、家庭、就労、教育などありとあらゆる分野に影響し、社会の抱える問題が次から次へと噴き出した。

 「コロナ禍で表面化したのが昭和おじさん社会でした」。こう語るのは、健康社会学者で新著「コロナショックと昭和おじさん社会」(日経プレミアシリーズ)がある河合薫さん(54)だ。

 この「昭和おじさん社会」とは何か。河合さんによると、背景には高度経済成長期の社会像がある。「1960~70年代に大学を卒業し、新卒で企業に雇われ、定年まで勤め上げるという仕組みができました。このレールに乗ったのが、全体の3割ほどにあたる“エリート”と呼ばれる人たちです」と説明する。

 特に出世競争を勝ち抜くためにがむしゃらな働き方をしてきたエリートは「企業戦士」「猛烈社員」と呼ばれた。栄養剤片手に24時間働きづめ。休日も惜しまず上司や顧客とゴルフ漬け。河合さんは「こうして努力、忍耐、体力で階層の上層に陣取り、会社を動かすようになったのが昭和モデルのエリート中のエリートです」と指摘する。

 こうした「昭和おじさん」が経営トップに上り詰めたのは、日本経済の成長神話が崩れ去った90年代以降。氷河期世代が生まれ、リーマンショックや東日本大震災で日本の体力は失われていった。「一億総中流」は過去の残像となり、単身世帯や非正規雇用が急増。少子高齢化に歯止めはかからない。河合さんは「不幸にも昭和のエリートが陣頭指揮をとったことで、社会のカタチが変わった平成にまで昭和のカタチが引き継がれてしまった」とため息をつく。

 政治もまた「昭和おじさん社会のまま」と指摘する。例に挙げたのはコロナ禍における突然の全国一斉休校。「専業主婦家庭よりはるかに多数派となった共働き家庭やひとり親家庭にパニックをもたらし、社会に混乱を招いた」とし、安倍晋三首相がここまでの混乱を想定していたかどうか首をかしげた。

 なぜ「昭和おじさん社会」から脱却できなかったのだろうか。「時代が変化していく中、誰もが“負け組になりたくない”と必死にしがみつく状況が続いてきた。そして勝ち組の下層でもいいから“しがみついていたい”という人たちが、昭和おじさんたちに賛同していった。すると勝ち組にいる気分になってしまう。そうして現実には社会が変わっているのに見ないふりをしてきた」と分析した。

 「特にシニアと呼ばれる世代が一番分かってるんじゃないでしょうか」と河合さん。「定年を迎えて、嘱託で再び会社から雇用された時に“俺の賃金ってこんなに安いのか”と気付く」と語る。

 浮き彫りになった“ひずみ”は数え切れない。「非正規というだけで賃金が低いのはおかしいし、働いても働いても貧困から抜け出せないのはおかしい。教育格差が生まれるのはおかしい。介護現場が疲弊して、老老介護の末に殺人事件が起きるのはおかしい」と憤る。

 このコロナ禍は日本人の価値感が変化していく機会ともとらえている。「人が幸せになるためには、仕事、家庭、健康という3つのボールをジャグリングのように回し続けなければいけない。これまでは仕事だけが優先され、家庭や健康は二の次だった。急に家庭や健康のボールが大切だと気づいた人も多いのではないか」と現状に目を向ける。

 アフターコロナに向けてキーワードになってくるのは「他人力」だと力を込める。「うつらない、うつさなさいと自発的にソーシャルディスタンシングを保つようになった。野菜の行き場に困った農家を支援した経営者が現れた。1人親家庭のために弁当をつくり続けた人たちもいた。人を思いやったり、思いやってくれる人がいたり。他者とのつながりを高める力、つまり他人力がもっと試されていくでしょう」と河合さん。「本の中にはファクト(事実)をそろえて、考える材料を提示しました。“あなたはどんな社会を望みますか”ということを考えるきっかけになってほしいと願っています」と訴えた。

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