【イマドキの仕事人】深刻さ増すDV…追い詰められた被害者アシストする「夜逃げ屋」

[ 2019年9月16日 05:30 ]

「夜逃げ屋TSC」が拠点とする東京・新宿のビル街
Photo By スポニチ

 家庭内暴力、ドメスティックバイオレンス(DV)は年々深刻さを増している。全国のDV摘発件数は統計が始まった2003年から昨年まで15年連続で増加。穏便な解決が望めない場合は、時には逃げるという判断も必要になる。決して失敗が許されない逃避行をアシストする「夜逃げ屋」として働く女性を追った。

 都心にそびえる高級タワーマンション。ある裕福な40代女性が、暴力を続ける男性との別れを決意していた。スタッフとSP各4人の8人態勢で、引っ越す先は都内の別のタワマン。2トントラック2台分の荷物を、わずか1時間ほどの作業で積み込んだ。

 「相手がいつ戻ってきてもおかしくないけど、その時はその時」。覚悟を決めつつ冷静な判断で指揮を執るのは、新宿に拠点を置く「夜逃げ屋TSC」の創業メンバー、花村瑠美(仮名、40代)。夜逃げのプロとして、DVやストーカーに悩む被害者の相談に乗り、18年ほどになる。

 ウェブサイトを見た人や知人の紹介だけでなく、警察や公的機関からの相談もある。借金は基本的に対象外で「明らかに自業自得という案件は助けない。そういう方はそもそも払うお金もないし」。料金は都内から都内、2トントラック1台なら平均10万~15万円ほど。緊急性や危険性、移動距離、荷物の量などにより変動する。

 夜逃げというと草木も眠る丑(うし)三つ時、物音を立てずにこっそり…というイメージか。だが「夜はかえって目立つから昼の方が多い。昔からある夜逃げという言葉を使っているだけ」。相手が仕事やパチンコに興じる外出時を狙う。作業はスピードが肝心で、あくまで堂々と。「近所の方にあいさつもする。別にどこに行くと看板を出すわけじゃないし。相手が帰ってきたらいないわけでしょ。笑っちゃうよね」と明るい。

 決行のタイミングに慎重を期しても、作業中に相手が戻ってこないという保証はない。「記者さんがスタッフだとして、作業中に突然男が武器を持って現れたらどうする?“俺の家で何しとるんじゃ!”って、何を言っても聞く耳を持たないの」。戸惑う記者に「3秒くらいで考えないと。そんなこともあるけど、これまでケガ人は一人も出していない。プロなので」とプライドをのぞかせる。

 花村自身も20代半ばで、交際していた男性から想像を絶するようなDVを受けた。「死ぬ寸前までが2回。全身打撲、顔面骨折…。あとはお金の無心。1500万円くらいは取られた」。大学院を卒業後に一般企業を2年で辞めて独立、飲食店経営事業を始めた。その頃に心を奪われたのが、同業他社のその男性。「営業成績が抜きんでていて、2人で数字を争っていた。意気投合して、2人で組めば怖いものはないよねって。それが失敗だった」と振り返る。

 交際1年ほどで違和感に気付いた。とにかく束縛される。「当時の携帯電話はすぐ圏外になる。どこにいた、男と会ってたんだろ、なぜ電源切るんだと。不在着信や留守電がたくさん入る」。ハネムーン期と呼ばれる一時的に優しくなる時期も訪れるが、すぐ大きな反動が来る。警察に相談しても「付き合ってるんでしょ」と相手にされない。

 2度目の大ケガをした際、親身になってくれる刑事に出会った。「あなたまだ20代でしょ。このままじゃ死ぬよ。逃げなさい」。父親のように叱られて決意。車に貴重品やPCを積み、一人で男の元をこっそり離れた。事業も手放した。お世話になった刑事や弁護士らに背中を押され、90年代の映画「夜逃げ屋本舗」シリーズもヒントに、新たな仲間と夜逃げ事業を始めた。

 当初は10年もたてば行政の対策も進み、この仕事も淘汰(とうた)されると考えていた。「なのに20年近く続いている。おかしいでしょ」と疑問を呈する。「赤字では困るけど、利益を重視するわけでもない。でも被害者がいなくならない限り、あるべき事業なのかなという気はする」。残念ながら、社会はまだ花村の力を必要としている。=敬称略=

 《依頼者のため写真撮影NG》取材はぼかしや後ろ姿を含め、写真撮影なしが条件だった。SNSが発達した現代では、どんな小さな情報から加害者に見つけられるか分からない。花村は「私はまだ閲覧制限(他人がDV被害者の住民票などを見られなくする措置)がかかっているので。それに引っ越しの現場で“あれ、あの人見たことある”となってはいけない。依頼者のためでもある」と強調した。

続きを表示

「ラグビーワールドカップ2019日本大会」特集記事

「結婚特集」特集記事

2019年9月16日のニュース