【イマドキの仕事人】デジタル合成遺影で“理葬”に近づく

[ 2019年6月17日 05:30 ]

デジタル復元師の小林泰三さん
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 写真でしか残っていない美術品のレプリカを制作したり、モノクロ写真をカラー化する「デジタル復元師」。都内にアトリエを構える小林泰三(53)は第一人者で、数多くの作品を手がけてきた。その大ベテランが新たな事業として「デジタル合成での遺影制作」に乗り出した。きっかけは父親の遺影選びだった。

 東京都葛飾区にあるマンションの一室。明かりはパソコン画面だけ。小林はマウスを黙々と動かし、着物の女性が写ったモノクロ写真に色付けしていた。

 「画面の反射ができるだけないように暗くしているんです」

 微妙な色や風合いを確認する繊細な作業ゆえ。写真の傷や粗い部分を修復し、着物の風合いなどから色を判断し着色。しばらくすると鮮やかな1枚が出来上がった。

 デジタル復元とはコンピューターに画像データを取り込み、写真加工ソフトで加工してオリジナルに近づけること。「ゴミやシワの一つ一つを取り除く地道な作業の繰り返しです」と話す。

 美術作品に興味を持っていた小林は大学で美術史を専攻。学芸員の資格も取ったが、卒業後は大手印刷会社に就職した。美術のハイビジョン番組に携わり、国宝に指定されている「花下遊楽図屏風(かかゆうらくずびょうぶ)」のデジタル復元を担当。自分の好きな分野でもありのめり込み、技術もめきめきと上達。通産省(当時)などが主催した「マルチメディアグランプリ」で最優秀賞も受賞した。

 「もっと子供たちに美術を身近に手に取って感じてもらいたい」と、より自由な立場で仕事をするため15年前に独立。美術品をデジタル復元し、そのデータをプリントアウト。小学校でワークショップを開き「平治物語絵巻」の巻物などのレプリカを紹介してきた。「本物の巻物はもちろん触ることはできないが、レプリカなら実際に回しながら読むことができる。当時の人はこんなふうに読んでいたんだという感覚を味わえるんです」と語る。

 美術品の復元で高い評価を得ている小林。新たに「こんなことをやっている人はいないでしょう」という“デジタル遺影作り”に乗り出した。表情は良くても横を向いている、正面を向いているが表情が硬いなど生前の複数の写真を組み合わせ、理想の一枚を作り上げる事業だ。

 きっかけは8年前、父・富士也さんの死だった。葬儀で使う写真を探したが、あらかじめ写真を撮っておらず、適切なものが見つからなかった。そこで自ら制作することにした。「元気だったころので、正面を向いているが顔が小さい写真と、スナップ写真でも顔のパーツがはっきりしている写真を合成して遺影を作りました」と振り返る。

 「葬儀に間に合わせるため、亡くなった晩に作ったので変な気持ちでしたね。でもピンぼけの写真や、鮮明でない写真で父親を送り出すことは絶対にしたくなかったんです」と話す。葬儀社に写真を送れば、見栄えが良くなるよう加工してくれるサービスはあるものの“理想の遺影”とまではいかないという。小林は依頼主である遺族の話を聞き、故人が一番元気だった時の表情に近づけていくという。父親の遺影は「一番元気だった時の父を思い出すことができ、今では家族の中でも大切な写真になっている」という。

 スマホにデジカメと撮影の機会が増え、写真があふれる現代。ただ事前に遺影を準備していない場合、遺族にとって1枚を選び出すのは難しい作業だ。遺影は家族にとっては、どんな高価な美術品よりかけがえのないものだろう。「良い遺影を作ることで、遺族にとって一生の宝物になればうれしい」。最高の一枚を提供するため、小林は頂点を極めた技術をさらに磨いている。 =敬称略=

 《価格5万円程度》小林は父・富士也さんの遺影を2枚の写真を使って作った。当初、正面を向いていて柔和な表情の1枚が見つかったが人物が小さく、拡大すると画素が粗くなってしまった。そこで若干横向きだがアップの写真を選び、その写真の肌合いを合成。画素の粗い部分を修正していった。デジタル遺影作りの価格は5万円程度を予定。

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