児相職員の困惑 南青山だけではない“迷惑”扱い

[ 2019年3月18日 05:30 ]

東京・南青山の建設予定地
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 【イマドキの気になる現場】東京都屈指のセレブタウン・南青山に、児童相談所を含む福祉施設の建設計画が浮上し、住民から「町の雰囲気に合わない」などと反対の声が上がっている。相次ぐ児童虐待に多くの人が心を痛める一方で、現場で対応する児相が“迷惑施設”として拒否されるケースが多い。困惑するベテラン職員の思いを聞いた。 (岩田 浩史)

 東京メトロ表参道駅から徒歩3分、金網に囲まれた広い空き地が、児相や母子生活支援施設などからなる「港区子ども家庭総合支援センター」建設予定地だ。2021年の開設を目指し、8月に工事が始まる。辺りはカフェや高級ブランド店舗が並ぶ都心の一等地。反対派の「もっと経済効率の高い使い方ができる土地」との意見にも説得力はある。
 2月下旬、近くの小学校で3度目の住民説明会が開かれた。この日も参加者によると「土地の価値が下がる」などの声が上がり、紛糾したという。

 “南青山ブランド”を前面に押し出した主張ばかりが注目されるが、児童福祉施設の設置に反対運動が起きるのはここだけに限った話ではない。最近では大阪市のタワーマンション内に開設が検討された児相や、岐阜県内で児童養護施設の移転が中止に追い込まれるなど、全国で拒否反応が起きている。
 数ある児童福祉施設の中でも、象徴的な存在として反対されるのが児相。千葉県野田市で小学4年生の女児が死亡した事件などで、児童虐待事件が起きるたびに、対応のまずさが報じられるのも影響しているとみられる。

 児相は本来、虐待だけでなく非行や不登校、障がいや発育に関する問題など児童関連のあらゆる相談に応じる機関。だが、近年は虐待への対応が業務の大半となっている。17年度に、全国210の児相に相談があった児童虐待は13万3778件。一方で児童福祉司の人数は3115人(17年4月1日現在)しかいない。東京都の児相で働く管理職のAさん(58)によると「都では1人あたり平均56件の相談がある。国も人を増やそうと動いているが、全く足りていない」という。

 近隣住民や警察などから虐待通告があれば、48時間以内に確認する決まり。児童福祉司は家庭や学校に急行することもある。家庭環境の変化を観察し、年単位の見守りが続くことも多い。Aさんは「超過勤務が当たり前になっているのは否定できない」と苦笑い。人手不足の“ブラック職場”で苦悩する職員の姿もうかがわれた。
 野田市の事件では、傷害致死容疑で逮捕された父親が、児相の担当者に威圧的な姿勢で接していたことも、世間に衝撃を与えた。  「親にとって、児相は子を引き離す敵のような存在。反発はあって普通」とAさんは言う。児相の建物内で親と会う際、都では現職警察官や警察OBが必要に応じて同席。弁護士らの法的サポートもある。自宅訪問は「暴力や監禁などの危険も想定し、必ず複数人で行く」という。親の激しい抗議は当然のようにあり、暴力も珍しくないならば、児相を受け入れる住民にとって不安材料となる。  そもそも、なぜ我が子を虐待するのか。虐待の増加と、核家族化を関連付ける指摘もある。子育ての負担が重くなり、親が耐え切れない場面が増えたのかもしれない。虐待する親は、虐待されて育った例が多いとされる。Aさんは「頭に“虐待する親”しか子育てのモデルがなく、暴力をしつけと本気で思っている。この連鎖を断ち切らないと、虐待はなくならない」と強調。都では、親へのカウンセリングや指導も児相の仕事になっているという。「子供は親が育てるのが一番。でも親が育てられない時、どうします?大切なのは子供の命が守られ、きちんと育つこと。住民の方には、なんとかそこを理解してほしい」とAさんは訴えた。南青山の説明会では「他人の子供の面倒なんか見たくない」という意見も出た。一方で「親子関係が壊れた時、子供がきちんと育つよう地域一丸となって建設的に議論すべき」という人もいた。児童虐待の増加に心を痛めるのも、施設が近所に建ってほしくないことも正直な感情かもしれない。ただ、少子高齢化社会を支える若い世代への裏切りは自分たちに返ってくる。児相問題は、我々一人一人に突きつけられている。

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