【イマドキの仕事人】「社歌」作詞家&プロデューサー 変化する雇用形態、社員を一つに前向きに

[ 2019年2月11日 09:00 ]

社歌を制作するスタジオでリラックスする社歌作詞家兼プロデューサーの西尾竜一氏(右)
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 雇用形態の変化やリストラで、終身雇用が崩壊しつつある現代。社員に愛社精神を求めるのは、もう時代遅れなのかもしれない。そんな風潮の中で社員が心を合わせ、前向きに仕事に取り組む指針となる「社歌」を提供する職人がいる。経営者や社員の熱い思いをフレーズに込め、親しみやすい作品に仕上げている。

 東京・池袋のオフィスで、西尾竜一(55)は譜面を映すモニターを前に頭をひねっていた。「作詞は地味な作業。座ってじっと考えたり、ウロウロしたり。5、6時間考えても言葉が出てこないこともある」と笑う。

 西尾は社歌とビジネス漫画を制作する「アイデアガレージ」の社長。作詞家兼プロデューサーとして、大小50以上の企業に社歌を提供してきた。社歌は社内行事や朝礼、ショールームのBGMや電話の保留音など、さまざまな場面で活用される。依頼者は周年事業や合併、経営者の交代など大きな節目を迎えた企業が多い。

 社歌の作詞の基本は徹底した取材だ。なぜ社歌を作るのか、どう活用したいのか。じっくりヒアリングし、社史やホームページなど資料を徹底的に読み込む。幹部や社員からキーワードを募集し、集まった言葉を、より象徴的な歌詞に昇華させる。「1曲に使える単語は10〜15個ほど。その中で皆が納得するものを作る」。韻を踏むなど、歌いやすくする工夫も不可欠だ。

 作曲はプロの作曲家に外注する。曲調はオーケストラ調かポップ調か、合唱かソロにするかなどを決めて、いよいよ本格的な社歌が完成する。基本料金は約50万〜150万円。3カ月ほどで音源データ、譜面などをセットにして届ける。

 西尾の原点は「職」への情熱だ。最初の就職先は人材関連サービスのリクルート。転職を経て、カタログなどを手掛ける制作プロダクションを設立した。「キャリア教育」をテーマに掲げ、メッセージを伝える手段として歌と漫画に着目し、07年に社歌制作を開始。当初は作詞もプロに依頼していたが、依頼者の意向をより反映するため、自ら初めて本格的に作詞に挑戦した。

 「アーティスト出身でないからこそ、お客さんの思いを言葉にする丁寧さは負けたくない」とこだわる。依頼者に詞を見せた瞬間の「これだよ!」という反応や、就活生の「社歌に引かれた」という声は何よりの喜び。「届けた社歌を社員の皆さんとスナックに持ち込み、カラオケで一緒に涙を流しながら歌ったこともあります」と懐かしんだ。

 東日本大震災のあった11年を境に、歌詞に「絆」の言葉を入れる社歌が増えたという。「以前は企業の宣伝や勢いを示す社歌が主流だった。でも最近の社歌は社員が主役。強い社歌から、優しい社歌になってきているのかな」と語る。

 会社が絶対とされない時代だからこそ、象徴として社歌の果たす役割は大きい。自身の紡ぐフレーズが、ともすれば希薄になりがちな社員同士の絆を強めることを西尾は願っている。 =敬称略=

 《社業テーマに完成》千葉県富津市に工場を持つ素材メーカー「キミカ」では昨年春、社歌「帆をあげて」が完成した。海藻に含まれ食品や医薬品に使われる物質「アルギン酸」が主力製品とあり、社歌は「海」がテーマ。社長が歌詞の骨子を作り、社員から集めたキーワードを基に西尾が形を整えた。女性ボーカルによる明るい曲に仕上がった。

◆株式会社キミカ社歌「帆をあげて」1番

羅針盤さえなく 切り開いてきた

あなたの想(おも)いは この胸に深く

色褪(あ)せることのない 航海図のように

いつまでも勇気を 与えてくれる



夢を描くから 叶(かな)えることができる

君を信じるから 笑い合える



いま帆をあげて 心ひとつにして

あふれる想いを この手に抱いて

明日へ漕(こ)いでゆく

いま顔を上げて 瞳そらさぬように

まっすぐ空へと この手を伸ばして

明日を創ってゆく

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