【イマドキの仕事人】無責任にできない、植木の育て親を探す

[ 2018年7月9日 05:30 ]

「やましたグリーン」代表の山下力人さん
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 街を歩いていると、大きな木が植えられている家を見掛ける。大切に育てているのがうかがえるが、引っ越しなどで植え替えることが難しく、切らなければならないケースがあると聞く。そんな時、木を引き取り、新たな育て親を探す「植木の里親」を名乗る人がいる。造園会社「やましたグリーン」の山下力人(40)を取材した。

 東京都内の庭園で、山下ははんてん姿で高さ約3メートルの木の根元をスコップで掘っていた。木の根は深く「切らないと抜けないが、切りすぎると枯れてしまう」。どの範囲を掘るかを慎重に見定めながら作業を続け、約20分後に根とその周りの土だけを残して木を掘り起こした。

 続いて、根を保護する白いシートを巻き、運搬用のトラックに積んだ。この後は東京都八王子市にある会社の所有する土地に植え替え、ホームページやフェイスブックで新たな所有者を募集する。

 家で木を育てられなくなった際に、抜いて保管し、預かり、別の人に引き渡す。依頼者の理由はさまざまで、引っ越し、リフォーム、故人の遺品整理などが多いという。

 現在、会社の敷地の一角には、預かった木が約300本植えられている。新しい育て親の元へ引き取られていく木は「月に数本から数十本」。木を引き取ってほしいという依頼は「ほぼ毎日来ている状態」で敷地内に木が増え続けているという。

 預かる本数が増えると、当然管理も大変になる。「暑いと外に出せない、水をやりすぎてはいけない」など、木の種類によって育て方が異なる。根を切って抜いて持ち帰っているため「枯れさせてしまったこともある」という。木の特徴ごとに分けて管理するためには広大な土地が必要になる。「将来的には、もっと広い所に預かった木を植えて、来た人が気に入った木を持ち帰ることができる植物園をつくろうかと考えている」と話した。

 八王子市出身。祖父も庭師で「子供の頃から憧れていた」という。高校生の時に造園会社でアルバイトを始め、卒業後に就職。2008年に独立して「やましたグリーン」を立ち上げた。

 「植木の里親」を始めたのは11年。高齢女性から引っ越しを理由に庭の木を伐採する依頼を受けた際、これから切るというタイミングで女性が号泣していた。理由を聞くと「亡くなった主人が大切に育てていた。切りたくない」と話した。

 女性と相談し、木を抜いて会社に植え替えた。女性が「誰にも相談できず、切るしか方法がないと思っていた」と話したことから、ホームページに「植木の里親活動」として掲載。その後の1年間で50件以上の依頼が来た。

 山下自身も「木に関わる仕事をしているのに、その命を絶つことに抵抗があった」という。犬や猫などと同様に、木を家族のように思い、育てている人は大勢いる。「死なせたくないという思いの受け手になれたことはうれしい。命をつなぐ仕事にやりがいを感じている」と胸を張った。

 里親の元から元気に巣立っていく子供たちもいる。山下の手を離れた樹木は、今日もどこかで青々とした葉をたたえ、行き交う人の目を楽しませている。 =敬称略=

 《50万円で作業も》引き取り作業にかかる費用は運搬費と人件費が3万円前後。群馬県、茨城県、千葉県など遠方からの依頼も受けているが、距離が遠いほど料金は高くなる。巨大な木を抜く場合にはクレーンなどを使うこともあり、過去には50万円で作業を行ったこともある。引き取った木を別の人に引き渡す場合、木の代金は発生せず運搬費と人件費のみ。大きな木は10万円で植えたケースもある。

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