【コラム】山内雄司

差別根絶 “目に見える、耳で聞こえる”方法を

[ 2015年12月7日 05:30 ]

 ガンバ大阪のパトリック選手に対するツイッターによる差別発言問題は、浦和レッズを応援する埼玉県内の高校生のテレビ観戦後の書き込みということが判明し、当該高校生は保護者を伴って通学する学校へ名乗り出たうえで、パトリック選手本人及びJリーグ、ガンバ、レッズへの反省と謝罪の意を表明した。これを受けてJリーグはガンバに状況を報告し、パトリック本人も反省と謝罪を受け入れているという。なお、Jリーグはスタジアム外での事象とし、クラブへの処分は行わないことも併せて発表している。

 応援するクラブが敗れた腹いせだったのかもしれないが、高校生の行為は許されるものではなく、彼は今後を以て大いなる自己反省とともに内なる差別意識と向き合っていかなければならない。おそらくここまで大事になる予測は出来なかったのだろうが、人物が特定されたことで周囲の目に晒されるなか、それでも強く責務を果たしていく必要がある。傷ついたパトリック選手本人が、「少年と聞いたが、彼にも上を向いて欲しい」と語った言葉を深く受け止め、自分のしたことを総括することを望んでいる。

 ただ、決してこれで一件落着ではない。ましてや「高校生がバカだ」「ひどいヤツだ」と他人事で終わらせてはならない。自分も含め、本当に差別に対してどのような意識を抱き、その撤廃に向けた対外的、対内的なアプローチをしていくかが問われている。その点では、高校生の行為を自らにも置き換えて考える機会とする必要があるだろう。

 Jリーグやクラブにとっても、今回の問題はこれまでの取り組みへの再考の余地あり、とすべきである。それぞれ差別撲滅を目指して様々な活動を行っておるのは承知しているが、そのなかでこのようなことが起こってしまったことに重く受け止め、さらなる活動の強化と推進への方策を示す時ではなかろうか。

 では、どのようなアピールをしていけばいいのか。「差別を断固として許しません」と言い続けるのは大切だが、人の首に縄を付けて「止めろ!」と押さえつけるわけにもいかない。各々の心の問題だけに、とにかく常に自己の意識と向き合ってもらうことが何より優先される。そのために、もっとスタジアムや試合放映を活用出来はしないものか。

 5月29日付のコラムで、フェアプレーの意義や啓蒙について記した。興味のある方は読んで頂ければ幸いだが、そのなかであくまでも私見として『フェアプレー遵守の有形化』という項目を設けている。繰り返すが、あくまでも自分なりにどのように人々の心に訴えるかのひとつの例として、ある方式を提案させてもらった。焼き直しになるかもしれないが、ここでももう一度述べさせてもらおう。フェアプレーのみならず、そこに差別棒滅への誓いも加味できると考えるからだ。

 狙いは“目に見える、耳で聞こえること”である。見えるもの、聞こえるものは、考えるきっかけになる。現在、相手をリスペクトし、フェアに戦うことへの約束として、選手は試合前にフェアプレーフラッグにサインしているが、多くの場合では移動バスを降りた直後だったり、入場前の前室であったりと、人目に付きにくい場所、形態で行われている。これを“見える”“聞こえる”ようにはできないものか。

 入場を数分間早くして、スタンドの観客の前で、テレビ放映されるなかで選手がフェアプレーフラッグにサインしていく。サインするという行為自体は変わらないが、多くの人の目に映し出されることで、誓いの度合いは高まる。サインするということは責任を負うという証であり、それを皆の前で表明することでさらに責任の所在を明確に出来る。また、その場で選手がフェアプレーや差別撲滅への宣言をすることも、聞こえるという点で効果が期待出来る。1年に一度とか複数回と言わず、毎試合、選手が宣言する。何もキャプテンじゃなくてもいい。むしろ毎回異なる選手がペーパーを読み上げる出なく、自分の言葉で語りかけたら、人々も差別に対して、リスペクトに対して、フェアプレーに対して真摯に向き合うきっかけになりはしないだろうか。

 人間は環境に慣れてしまう生き物だ。次第に形骸化し、効果が薄れるということも予想される。しかし、それでもまず誓いや証を可視化し、そこで皆で責任を負うという意識や連帯が生まれたとしたら、さらなる方策への議論も活発化すると思う。

 「随分とショボい案だな」と言われるかもしれない。大仰にドカンとした方策があればそれに越したことはないが、人の心に火を灯すには小さなことの積み重ねも有効なのでは、という気もする。意識の共有が図れるなら、どんなことをやってみてもきっとマイナスにはならないはず。弁解するなら、こういう私案を出し合うのもきっとマイナスにはならないはず、と思いたい。(山内雄司=スポーツライター)

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