【コラム】山内雄司

偉大なストライカー 佐藤寿人

[ 2015年7月31日 05:30 ]

広島のFW佐藤寿人
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 偉大なストライカーがまたひとつ勲章を手にした。

 広島の佐藤寿人が5節の神戸戦でヘディングシュートを決め、12年連続ふた桁ゴールを達成。うち04年と08年はJ2でのものだが、J1に限定しても7年連続の快挙である。現在33歳の佐藤だが心技体はますます充実しており、大きな負傷がない限りこの記録はまだまだ伸びると思われる。J1通算得点でも最多記録保持者である中山雅史の157ゴールにあと2ゴールと迫っており、固め撃ちも持ち味のひとつである佐藤ならば、8月12日の6節で並ぶことも考えられる。否、一気に抜き去る可能性だってある。

 昨今はスキージャンプの葛西紀明選手の活躍から『レジェンド』という敬称が一般的となってきており、それ故に少し安っぽくなった嫌いもあるが、佐藤がそう称されることに些かの抵抗もない。現役ながら伝説と呼ぶに相応しい選手がトップリーグに存在し、幾多の素晴らしいゴールでこれまでも、そしてこれからも人々を楽しませる。日本のフットボールファンはなんと幸せではないか。

 1メートル70というサイズは日本人の中でもおよそ小柄だ。しかし、彼はそれをモノともせず、むしろメリットにしている。守から攻への切り替え、DFラインとの駆け引き、裏を取る動き、動き出しのタイミング、ゴールへの意欲、相手の位置を動いた中で察知し瞬時にプレーを判断できる思考の瞬発力、シュートの巧みさ、ワンタッチで自分の形に持ち込む技、味方を活かすランとパス……。今さら言うまでもないが、すべてが超一級品である。特に縦への推進力と確実にチャンスを創り出し、ゴールへと直結させる能力は、Jリーグの中で外国籍選手を含めても随一であると断言できる。

 絶対的な存在として比類なきキャリアを歩んでいる佐藤寿人だが、惜しむらくはその能力をもっとも欲しているはずのチームに参加できていない。これはどうしたわけなのか。

 ワールドカップ2次予選の初戦、シンガポール戦でスコアレスドローという失態を演じたハリルホジッチ監督率いる日本代表はまだメンバーを固定する時期にあらず、FWも様々な可能性を探っている。縦への意識づけという第一段階から実戦への第二段階へと移行するも、上手くいっているとは言い難い。本田圭佑や岡崎慎司、武藤嘉紀や宇佐美貴史といった“常連組”に加え、永井謙佑や川又堅碁らを試しており、それぞれに持ち味の一端は発揮しているが、まだしっくりとハマるとまではいっていない。そんな現状を考えるにつけ、佐藤の万能でありながら特化した能力が、代表に足りないモノをもたらしてくれるような気がしてならない。

 無論、選手の選考は監督次第である。指揮官が呼ばないには理由があるのだろう。遠藤保仁を尊重しつつもきっぱりと外した理由を年齢に求めたハリルホジッチ監督のこと、33歳の佐藤の年齢を考慮しているとすれば合点も行く。ただ、ピッチの上では年齢は関係ないのもまた真理である。誰よりも走れて、誰よりも得点できるとしたら、年齢は単なる数字でしかない。

 海外組を除いた布陣で東アジアカップに臨む日本代表だが、ここに佐藤がいたら試合はもちろん、それ以外の場所でもこれから代表メンバーに割って入ろうとする新たな選手たちにとっても大いなる刺激になっただろう。優れたFWは同ポジションの選手との競争効果を高めるばかりでなく、良いDFを育て、MFの成長をも促進する。青山敏弘などはおそらく佐藤の存在によって、より成長の度合いを高めたであろう。野津田岳人や浅野拓磨、柴崎晃誠といった広島の若手たちも多大な影響を受けていると思われる。その面でも佐藤寿人を活かさない手はないと思うのだ。

 いや、実のところ、そんな理由付けは脇に置いて簡単に言ってしまうと、佐藤寿人を日本代表で見たいのだ。12年を最後に代表のユニホームに袖を通していない。試合出場となるとさらにその2年前に遡る。その間もゴールを量産しているにも関わらず、である。

 人間は欲深い生き物である。彼に幸せを与えてもらっている立場でありながら、さらに幸せを与えて欲しいと願ってしまう。アジアのライバルや世界の強豪に一泡吹かせ、コーナフラッグを握って胸を張る佐藤寿人の姿を想像するだけでもワクワクする。

 果たして伝説のストライカーの新たな挑戦はあるのか。あるべきだと考えている。(山内雄司=スポーツライター)

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