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明らかに存在したアメリカとの実力差

なでしこジャパンの佐々木監督
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 なでしこの決勝における戦いぶりに関してはすでに多くの方が解説、論説されている。衝撃的な16分間での4失点、その後の佐々木監督の采配については様々な意見があるが、筆者の見解も述べておく。

 まず開始3分の右CKからの失点だが、ゴールしたロイドの速さは驚異的だった。マーカーの岩清水も「予想以上のスピードだった」と語っているが、これは自分の不甲斐なさ以上に、純粋な驚きが含まれたものだろう。ロイドはペナルティーエリア外に位置取りし、ペナルティーエリア内でケアをしていた岩清水をあっという間にぶち抜いている。ともすれば岩清水のマーキングに難があったと見られがちだが、彼女に責を負わせるのは酷である。ゴール前でマーカーを引き連れてニアに、ファーにと走り込んでロイドに決定的な仕事をさせたアメリカの組織的なスペースワークは秀逸で、多くの方が指摘している通り、日本をどこまでも研究していたと見るべきだ。岩清水とロイドとの約3メートルの間合いによるマークは、日本がこれまで培ってきた守備の概念では「これで十分に守り切れる」ものであった。アメリカはその概念を鮮やかに、かつ冷徹に粉砕した。概念はチーム全員が共有していたはずであり、その点では岩清水がロイドに負けたのではなく、日本の概念がアメリカに負けたのだ。概念そのものが根本から見直しを迫られたのである。

 では、岩清水はゴール前と同様、ロイドに初めからピタリと付いているべきだったのか。それでもやはりぶち抜かれていたであろう。半身とはいえゴールに背を向け、ボールとマーカーの双方に注意を払っているぶん、ゴールに向かって猛進しようとするロイドに動き出しで敵わない。そもそもフィジカル勝負では劣勢は拭えない。となると、アメリカのスペースワークを上回る新たな概念が必要となる。あくまでもマンツーマンで守るのか、スペースを与えない、スペースを徹底的に埋めるためにゾーン、あるいはマンツーマンとゾーンを併用していくのか。

 味方を楯として利用し、マーカーを引き剥がした2得点目もアメリカの組織力と巧妙さが光った。なでしこジャパンは『これまで』ではもはや通用しないことを痛烈に知らしめされた。守備の新機軸を打ち出し、再び概念まで昇華させていくという、極めて難易度の高い課題を突き付けられたと言える。

 さて、前半から積極的な交代策を施し、フォーメーションもめまぐるしく変化させた佐々木監督の采配についてだが、一部にはこれを「不可解」「積み上げてきたものを放棄するもの」とする論説もあった。 確かに3バックへの変更や、阪口をCBへ移したり、これまでやったことのない陣形に選手も戸惑いを隠せなかった。ベンチの思惑を図りかねたとしても無理はない。ただ、前半も半ばにして4失点という途轍もないビハインドを負ったなかでスクランブルをかけたのは、哲学や過程を投げ打ってでも最後まで闘うというメッセージでもあり、今は批判を恐れている場合でなく、ただただ目の前の強敵にどこまでもぶつかっていこうという悲壮な覚悟であったと受け取ることもできた。岩清水の交代も懲罰的に見えたのは否定できないが、彼女が精神的に不安定になっていた面は否定できない。とはいえ、あの交代によって岩清水というなでしこジャパンの最後尾を支えた功績までも否定されるわけではなく、最後まで闘い抜くためには、非情かもしれないが必要な交代であったと理解する。

 決勝という大舞台で、圧倒的な猛威の前にボロボロに傷つきながら、見ようによっては無様で不器用な面を晒しながら、それでもなでしこジャパンは気高く闘った。「感動をありがとう」は少し違うと思うが、選手たちがスクランブル状態の中でもがきながら自分の力量のすべてを出し尽くそうという気概は示してくれた。良く言えば、まるで試したことのない陣容も不可解とも受け取られる交代も、全部ひっくるめて今後チームがさらなる高みを目指すうえで、身をもって経験しておくべき教訓、試練であり、この体験はいずれ選手、チームの財産になるとは考えられないか。今後へのヒントを得るための代償とは考えられないか。

 もちろん詳細な検証は成されるべきである。采配の批判もあって当然だろう。それでも、明らかに存在したアメリカとの実力差を埋めるべく、世界の頂点への永続的な挑戦のためにも、ショッキングながら必要な勉強であったと考える。

 甘いと言われるかもしれないが、今はそう信じたい。(山内雄司=スポーツライター)

[ 2015年7月11日 05:30 ]

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