【コラム】山内雄司

アジアカップに向けて

[ 2014年12月14日 05:30 ]

天皇杯決勝を視察した日本代表アギーレ監督
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 アジアカップに向けて日本代表予備登録50選手が発表された。Jリーグ優勝の立役者のひとりで、「いつ呼ばれるのか」「なぜ呼ばれないのか」との議論も巻き起こしてきた宇佐美がついに選出され、アギーレ体制でどのような役割を与えられ、どこまでフィットし、G大阪でのパフォーマンスを持ち込めるかに期待がかかる。アギーレ監督の採用するフォーメーションは4バックにアンカーを置いた逆三角形の中盤、FWはセンターと両サイドに配置した4-3-3。宇佐美が起用されるとすれば、前線のサイド、いわゆるウイングとなる可能性が高い。しかし、すでに指揮官の中で、チームとしてある程度の順列がすでに形成されている。“出遅れた”宇佐美がポジションをつかむのは容易ではない。

 最大のライバルと目されるのが、今やアギーレ率いる日本代表の旗頭とも言える武藤だ。ここまでの6試合中3試合でスタメン、残る3試合でも必ずピッチに送り出されている。右の本田、左の武藤は早くも鉄板と呼べる状況で、宇佐美には幾重ものハードルが待ち構える。まず本戦登録メンバーに入ること。そして試合に出場すること。そのうえで、武藤がベネズエラ戦で見せたような、あるいはそれ以上のインパクトを残すこと。これらを果たしてようやくその牙城に迫ることになる。「もっと早くに呼んでくれていたら」などと嘆いても始まらない。宇佐美に罪はないが、現実的にそれだけの隔たりが出来てしまっている。黙してやるのみ。とにかく結果が求められている。

 武藤以外にも競合相手は少なくない。フランクフルトでも存在感をアピールする乾、バーゼルでは苦戦中だが、アギーレ体制での実績を持つ柿谷もいる。

 そしてもうひとり。何だか宇佐美らを前置きに使ったようで申し訳ないが、個人的に楽しみにしている選手が予備登録された。昨季の不調を乗り越え、再び代表ユニホームで輝く可能性を秘めた位置にまで戻ってきたスピードスター、永井謙佑がその人である。

 現在まで代表キャップはわずかに1。それももう4年も前の話だ。福岡大3年生にして2010年のアジアカップ最終予選に登場。同年のワールドカップ南アフリカ大会はサポートメンバーに回って出場できなかったが、11月に行われたアジア大会では、U-21代表を優勝へと導く原動力となり、得点王にも輝いた。そして2年後にはロンドンオリンピックに出場。チームとしては4位と失意を味わったが、そのスピードで世界をざわつかせた。この時点では前途洋々と思われたのだが、移籍先のスタンダール・リエージュ(ベルギー)で少し躓いてしまった。これは彼に限ったことでなく、もっと世界的に有名な選手であれ、移籍にはリスクが伴う。どれほど優れた選手でも、必ずしも100%のパフォーマンスを出せるかといったらそうではない。チームとのマッチング、チームの状況によって、あるいはクラブの方針等によって、実力を発揮できないことはある。あるいはコンディションの問題もあるだろう。永井も正直、リエージュでは躓いた。それを引きずり、昨季8月に期限付き移籍の形で名古屋に復帰した後も、輝きは失われたままだった。

 だが、今季は見事に復活した。序盤こそ途中出場が多かったが、スタメンをつかむと、次第に彼らしく、対戦相手を恐怖に陥れつつ、味方に頼もしく、観る者をワクワクさせるプレーを演じた。今シーズンは最大の特徴であり武器であるスピードだけでなく、ゴール前での思い切りと冷静さが上手いバランスでミックスされたような印象を受ける。例えば第24節の神戸戦ではヘッドで先制ゴールを挙げた後、ハーフウェーライン手前でボールを得ると、得意のドリブルを開始。対応したDF2人をスピードでぶち抜くのではなく、突っかけておいて細かいフェイントでかわし、落ち着いてゴール右に流し込んだ。かと思えば最終節では味方のボール奪取にいち早くフリーポジションを取り、今度は追いすがる敵をスピードで寄せ付けず、迷うことなく利き足とは逆の左足で豪快に決めてレッズの優勝の夢を砕いている。第32、33、34節と上がりの3試合でゴールを奪ったのも、完全に自分をコントロールし、自信に満ちた状態をキープできていたからに他ならない。

 もちろん、永井とて高いハードルをクリアしなければならない。まず、武器を実戦で披露する機会を得なければ、メンバー入りは叶わない。そして、実際にアギーレ体制でどのようにフィットするかは未知数だ。そのハイプレスは必要とされるのか。ボールを呼び込めるか、スピードを効果的に生かせるか、周囲との連係は……。ただ、未知数だからこそ見てみたいという欲求にかられる。永井という選手は、ちょっと理屈とは離れた
ところで、論理とも離れたところで期待せざるを得ない。そんな魅力がある。

 個人的には、案外合うのではないかと思っている。プレスから一気のスピードでゴールに迫る姿勢は相手にとって厄介だ。彼自身が抜け出せなくとも、相手のラインを下げ、味方へのスペースを生むことになる。攻め込まれる中でも、カウンターからワンチャンスをモノにできる。少なくとも、貴重なピースとなり得る素材であるのは疑いの余地がない。

 繰り返しになるが、競争は熾烈だ。宇佐美も武藤もスピードあるドリブルがあり、それぞれに強みを持っている。代表チームに入って、十分な戦力足り得るプレーを見せる以上に、どこまでライバルにはない強みを発揮できるか。

 まだ4年ある。焦ることはないだろう。それでも、このアジアカップは体制序盤の順列付けという面で、選手には最初の関門と言える。ハイレベルな競争が見られそうだ。(山内雄司=スポーツライター)

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