【コラム】山内雄司

香川はユナイテッドで十分な経験を積んだ 移籍は失敗ではなかった

[ 2014年8月29日 05:30 ]

ユナイッテッドから移籍してほしい香川真司
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 夏の移籍マーケット期限となる8月31日が迫ってきた。イタリア・セリエAを除く欧州主要リーグはすでに開幕し、新たなシーズンへの陣容はほぼ整えつつあるが、この数日で最後のピースを加えようと画策している、あるいは人員整理をしようとするクラブも少なからずあるだろう。果たして、どこまでの“駆け込み移籍”があるのか。そして、その移籍劇の中に日本のファンにとって気になる名前は含まれるのだろうか。

 ルイス・ファンハールを新監督に迎えたマンチェスター・ユナイテッドは、リーグ2戦を終えて勝ち星なし。まだチーム構築の段階であり、名将も暫くは苦悩の多い厳しい日々が続くと思われる。だが、先だってレアルからディマリアを迎え入れ、「素晴らしい補強」と喜びを隠さない。無論、いきなりチームにフィットするかは分からないが、彼の加入は一気にベクトルを上向きにさせる可能性すらあるほどのインパクトを伴う。と同時に、現在までのところ指揮官にインパクトを残せないでいる日本代表の10番が被る影響も少なくない。

 選手能力の見極め機会となったアメリカ遠征で、中盤の底を試された香川だったが、「私の要求や哲学を満たすものではなかった」とダメを出され、レギュラーの座は遠のいた。事実、リーグ2戦は出番なし。スタメンなったカップ戦でも脳しんとうで前半途中で交代と、絶好のアピール機会も失ってしまった。運にも見放された感じもする苦境の中、ディマリアの加入でさらに香川のプライオリティが低下するのは否定できない。モイーズ体制下での不遇は、ファンハール体制となっても継続、もしくはなおのこと拍車がかかるのでは、と危惧する。

 なればこそ、筆者は強く希望する。香川がこの夏、移籍を果たしてくれることを。

 もちろん、移籍は本人の意志がすべからず反映されるものではない。多額の金銭が伴うビジネスであり、クラブ間の損得勘定が関わってくる。選手が残りたい、移りたいと言ったところで叶うことはない。ただ、選手として常に自らの立場を鑑み、フットボーラー人生を設計する。その手段のひとつとして移籍があるなら、選手の出来うる範囲で可能性を探ることは、何ら身勝手な行動にはあたらない。

 彼自身がどう考えているのかは不明だ。しかし、その輝きが失われて久しい現在、マンチェスターに留まる意義は見出しにくい。苦境を乗り越えてこそ成長できる、自信をつけられるという考えは確かにその通りであろうが、試合でしか得られない成長や自信の源を逃してしまう。まだ25歳か、もう25歳か。時間は否応なしに流れていく。

 とはいえ、よく語られる次のような台詞には違和感を覚える。「この移籍は失敗だった」とか、「高望みし過ぎたんだよ」とか。そうだろうか。いや、失敗なんかではない。香川がマンチェスターで過ごし、戦った経験は、苦しみも含めて必ずや彼の糧になるはず。プロとして高いレベルに身を置きたいという欲求も非難されるものではない。うまくいかない事象、時期を簡単に「失敗」で片づけるのは、プロの世界を乱暴に括ってはいないか。優れた選手が所属先によって本来のパフォーマンスを発揮できないことはいくらでもあるし、またその逆も多い。チームやチームメイトとの相性は確実に存在する。それらには選手がいくら奮闘しても抗えない部分もある。だから「失敗」だったから「逃げ出す」というネガティブな発想ではなく、経験を実戦で生かすチャンスとして移籍を考えるべきであろう。

 そう、香川はマンチェスターで十分な経験を積んだ。今こそ、次なるステージへ踏み出す時ではないか、というのが筆者の思いである。失敗かどうかより、再び輝くための最善の道を歩んでほしい、敗者としてではなくポジティブなステップアップを果たしてほしいのだ。

 あと数日のうちに、香川がそれを果たしてくれることを強く願っている。(山内雄司=スポーツライター)

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