【コラム】山内雄司

徹底的な排除は必要
差別に対する毅然としたリードとガイドライン

[ 2017年5月12日 15:00 ]

処分を受け取材に応じる森脇
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 浦和レッズ対鹿島アントラーズ戦で起こった差別発言疑惑騒動は、Jリーグ規律委員会によってビデオ検証に加え、浦和から嫌疑をかけられた本人の森脇、鹿島から小笠原が聴取を受けたが、「臭い」発言は認められたものの、その対象がレオ・シルバとは特定できなかったそうだ。結局、森脇選手には「侮辱」による2試合の出場停止処分の裁定が下され、幕が引かれようとしている。

 しかし、これで一件落着などとは到底言えたものではない。むしろ、この決着は多岐にわたって尾を引くのではなかろうか。もっと言えば、Jリーグは大きなミスを犯したと考えている。

 まず、規律委員会の検証の曖昧さを知らしめてしまった。ビデオでは確かに音声までは確認できず、だからこそ「臭い」という言葉が誰に向けられたかは分からないという判断に繋がったのだろうが、鼻を覆う動作は明らかにレオ・シルバに向けられていた。動作は時として言葉以上に雄弁である。まさか見落としたのだろうか。また、森脇、小笠原両選手だけの聴取も納得できない。レオ・シルバはもちろんのこと、森脇を必死に止めた那須や、騒動の輪にいた複数の選手から話を聞かなくては、真剣に事実を確認しようとする意識が欠如していると言われても仕方ない。なかでも那須はもっとも近くで当事者間の言動に接していた。呼んではマズい理由でもあったのか、と勘ぐりたくもなる不可解さである。

 規律委員会は、つまりJリーグは自らの首を絞めた。多くの人が万全とは思えない検証をし、灰色と感じる裁定を下したことで、信頼性と権威を欠いた。なかでも侮辱と差別の線を引くどころか、さらに不明確にしたのは罪深い。相手に言わなければ差別ではない。でも、騒動になったから侮辱。そんな線引きはやはりおかしい。

 さらには、「臭い」が侮辱なら、「クソったれ」や「チビ」はどうなのか。今後はそれらの言葉でも訴えられたら検証し、すべからず2試合出場停止になるのか。それとも「臭い」という言葉が特別に侮辱なのか。侮辱の定義もまた曖昧になってしまった。

 筆者は森脇に差別の意識があったとは思っていない。それは本人の言葉を信じるしかない。ただ、意識の如何に関係なく、今回の行為は差別的なものであるという裁定が必要であったと考える。小笠原に言ったにせよ、「臭い」という言葉を吐き、少しでもレオ・シルバに向く形で鼻を覆えば、それは差別と捉えられる事案ではないか。レオ・シルバが差別意識を感じ、傷ついたことが問題であり、不適切な言葉と行動は時として弁解できないことになると強く心に留めておく必要がある。そんなつもりじゃなかった、はもう効かない。Jリーグが真剣に差別と戦おうとするなら、徹底的に排除する姿勢を貫かなければならないはずだ。

 選手には受け入れられない意見かもしれない。ただ、“甘い”と見られる処分は長い目でみて選手にも良くないのでは、と思う。「灰色決着で助けられた選手」「運のいいヤツ」とずっと言われるかもしれない。いつまでも疑惑の目でみられ、レッテルを貼られてしまう。リーグが「意識の有無に関係なく、差別に該当する行為」と定義づけて処分し、選手もそれが差別に当たると肝に銘じ反省を誓ったうえで、その後の行動で意識がなかったことを証明していく流れを作らなければ、選手も救われないような気がする。

 誤解してもらいたくないのは、決して森脇はアウト、などと論点にしているわけではないということ。差別を語るには勉強不足だし、実際とても難しい問題だ。誰もが被害者にも加害者になる可能性もある。だからこそ、Jリーグには、また日本サッカー協会には毅然としたリードとガイドラインを求めるものである。

 Jリーグも森脇も、今回はミスを犯した。しかし、ミスはこれから挽回できる。一番いけないのは、一件落着と胸をなで下ろすことだ。根深い問題だけに、常に戦っていかなければならない。(山内雄司=スポーツライター)

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