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【コラム】戸塚啓

「美しい勝利」とは?

[ 2016年3月25日 05:30 ]

<日本・アフガニスタン>前半、長谷部(中央)を中心に円陣を組む日本代表イレブン
Photo By スポニチ

W杯アジア2次予選 日本5-0アフガニスタン
(3月24日 埼玉スタジアム2002 )
 3月24日のアフガニスタン戦を、日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「美しい勝利だった」と振り返った。サッカーにおける「美しさ」とは、華麗さだけを指すわけではない。溢れ出る闘争心も、乱れの無い組織も、ユニフォームを汚す貪欲さも、「美しい」と呼べるものだ。その意味では、5-0で勝利を飾ったゲームを表すフレーズとして、的外れではなかった。

 とはいえ、試合の核心を突いているかというと、ちょっと違う気がする。

 今回のW杯ロシア大会アジア2次予選で、アフガニスタンとはすでに一度対戦している。昨年9月のアウェイゲーム──正確には中立地イランでの開催だった──は6-0だった。当時から監督は代わったものの、メンバーが大幅に入れ替わったわけではない。

 その相手に、ホームで5-0である。ハリルホジッチ監督に「美しい」と言われても、素直に頷けない。

 日本代表が活動するのは、昨年11月以来だった。4か月の空白期間が横たわり、トレーニングの回数も限られていた。

 アフガニスタンもスケジュールは同じである。ただ、クロアチア人監督が率いるこのチームには、スタメンと途中出場に2人ずつ、無所属の選手がいた。ゲーム勘もゲーム体力も、日常的に養えていない選手がいたわけである。

 所属先のある選手たちにしても、ドイツ、オランダ、デンマーク、ルーマニア、スウェーデンなどのなじみの薄いクラブでプレーしている。プレミアリーグで首位を走るクラブの選手も、ミラノ・ダービーを戦う歴史と伝統のあるクラブの選手も、ACLに出場しているクラブの選手も、アフガニスタンにはいない。チームのベースとなる個人のクオリティにおいても、両チームには明らかな違いがあった。

 アフガニスタンのペタル・セグレト監督は、「キックオフ後の最初の1分で、日本がまったく別のレベルにあることが分かった」と話した。彼らのバックボーンを理解する彼にすれば、当然の肌触りだっただろう。日本が新たなフォーメーションに挑み、それがチームとしての機能性を損なわせるところがあったとしても、前回対戦より点差が縮まった理由には成りえない。

 アフガニスタンの先発の平均年齢は、24・3歳だった。日本は27・6歳である。控え選手を含めた23人の平均も、どちらもほぼ同じだ。チームと個人の実績でも経験でも、ユニフォームに染み込む対戦相手への威圧感でも、日本とアフガニスタンでは比較にならない。FIFAランキングでも、100位近くの開きがある。

 それでも、「美しい勝利」だったと胸を張っていいのだろうか。

 僕にはそうは思えない。(戸塚啓=スポーツライター)

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