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【コラム】戸塚啓

日本はまだ良いチームでしかない 応用力&精神的なタフさ必要

[ 2013年3月30日 06:00 ]

<ヨルダン1-2日本>何度かの好機も決められなかったFW前田(右)
Photo By スポニチ

 朝食のためにロビーへ降りると、ここ数日ですっかり顔なじみになったホテルのスタッフが声をかけてきた。ヨルダン対日本戦から一夜明けて、3月27日の朝9時前である。

 「ヨルダン2、ジャパン1」

 そう言って柔和な表情を浮かべる彼は、上着の下にヨルダン代表のユニフォームを着ていた。まだ喜びに浸っているらしい。前日の会話が思い出される。

 「今日は本田が出ないんだろう? 今日は本田が出ないんだろう?」

 26日のお昼過ぎに会った彼は、すがるような目つきでこう繰り返したものだった。「?」のあとには「だからヨルダンは勝てるはずだ」というひと言が続くのだろうが、そこまで言い切ることを彼はためらっていた。
僕が「ジャパン1、ヨルダン0」と答えても、黙ってこちらを見つめている。国によってはかぶせ気味に言い返されるところだが、彼は反論をしてこなかった。

 本田はいない。長友もいない。けれど、勝つのは日本だよ、という僕の思い──自信と言っても良かった──が、そこはかとなくでも伝わっていたのかもしれない。

 いくつかの「if」はある。前半14分の前田のヘッドが、GKに阻まれていなかったら。同22分の前田のヘッドが、バーに嫌われていなかったら。ヨルダンの選手たちの脳裏に、6月の埼玉スタジアムの記憶がよみがえったに違いない。前田の決定機ほど分かりやすいものでなくとも、チャンスに数えられるシーンはいくつもあった。

 いずれにしても先に得点をあげたのはヨルダンで、次に得点したのもヨルダンだった。スタジアムの温度はどんどんと高まり、日本は敗れてしまった。

 中東のアウェーゲームは、サッカーになりにくい。激しい潰し合いやボールの蹴り合い、さらには露骨な時間稼ぎに付き合うハメになったりする。ピッチコンディションが良くないことが加わったりもして、技術や戦術で相手を凌駕するのは難しくなってしまう。

 問われるのは応用力であり、精神的なタフさである。ひとまとめにすれば、非日常的な環境でも戦える人間的な強さだ。

 ヨルダンに負けたからといって、ワールドカップ予選突破が危うくなったわけではない。6月のコンフェデ杯で対戦するブラジルやイタリアに、恥をかかされると決まったわけでもない。FIFA主催の国際大会は、ピッチの内外がしっかりと整備される。相手もサッカーをしてくるだけに、結果はともかく日本の良さが出るとの期待感を抱ける。

 ただ、良いチームと勝つチームは、必ずしも重ならない。スペインのように良いサッカーをして勝つチームもいるが、日本はまだ良いチームでしかない。あるいは、うまいチームと言うべきか。

 朝食を終えて部屋へ戻るところで、顔なじみの彼がまた声をかけてきた。「本田が、いなかったから、ヨルダンは、勝てた」と、たどたどしい英語で言う。彼の気遣いが、僕には悔しい。(戸塚啓=スポーツライター)

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