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【コラム】戸塚啓

注目される湘南のAPT

[ 2013年3月8日 06:00 ]

 アクチュアルプレーイングタイム(以下APT)というデータがある。ゴールキック、CK、FK、スローインなどで止まった時間を差し引いて、実際にボールが動いていた時間を示すものだ。

 Jリーグでは昨シーズンからAPTを公表している。過日のJ1開幕節では、名古屋対磐田戦がもっとも長かった。62分49秒である。

 APTはレベルが上がるほど長くなるのが基本的な理解で、ワールドカップでは60分が最低基準と言っていい。スペインが絡む試合では、かなりの頻度で70分を越えてくる。80分に迫ることもある。

 昨シーズンのJ1は、1試合平均のAPTが55分37秒だった。蒸し暑い夏場は激しい消耗を強いられ、それが平均値ダウンにつながっているとしても、60分台には乗せたい。Jリーグが日本代表の土台となるには、それぐらいの水準を保つべきである。

 しかし、ゲームの水準や面白さは、数字だけではかれないのも事実である。

 J1開幕戦の8カードで、個人的に目を引いたのは横浜対湘南戦だった。スタジアムで観戦した知人は、声を弾ませながら興奮を伝えてきた。結果を知ったあとにテレビで観た僕も、スリリングな攻防に身体が前のめりになった。

 この試合のAPTはどれぐらいだったのか。53分05秒なのである。J1開幕節の8カードでもっとも短い。J2を含めても、全20試合で16番目にとどまっている。

 ならばなぜ、僕や知人は興奮したのか。両チームがサッカーをしていたからだと思う。

 導火線となったのは湘南のスタイルだ。マイボールになったら、できるだけ多くの人数をかけて相手ゴールへ迫る。相手ボールになったら、できるだけ多くの人数をかけ、しかもできるだけ高い位置でボールを奪う。直接FKとなるファウルは両チームともに少なくなかったが、流れを阻害するためではなくボールを奪うという意識、つまりサッカーをしようという精神に基づいたものが多かった。湘南のアグレッシブさは横浜を刺激し、トレーニングの成果をピッチで表現するという真っすぐな姿勢が、ゲーム全体のベクトルになったと感じる。

 横浜湘南戦では、37分ものプレー時間が削り取られた。見どころのあるゲームのなかに、まだまだもったいない時間があったのは事実である。

 J1昇格へ結びついたスタイルを、湘南がより高いレベルへ発展させていったとき、彼らのAPTはどれぐらいの数字になるのか。今シーズンのJ1で、僕が注目していきたいポイントのひとつである。(戸塚啓=スポーツライター)

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