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【コラム】戸塚啓

引き分け狙いの指示 なでしこ佐々木監督“決断の重要性”

[ 2013年1月3日 06:00 ]

2013年日程発表の際に、報道陣の質問に答えるなでしこJAPAN・佐々木則夫監督
Photo By スポニチ

 2012年のサッカー界を振り返ると、予想どおりの成果があり、予想外の出来事があった。年末年始のテレビ番組などで改めて観る映像は、決断の重要性に気づかせてくれる。

 たとえば、ロンドン五輪のなでしこジャパンである。

 グループステージ第3戦の南アフリカ戦で、佐々木監督は主力選手を温存した。先発を7人も入れ替えた。指揮官の狙いは、2位でのグループステージ通過だった。首位で勝ち進んだら、試合会場を移動しなければならない。準々決勝まで中2日のうち1日を、移動に費やすことになる。試合間隔の短い五輪では、それだけでもかなりの負担となる。身の回りの荷物をパッキングするだけでも、選手には憂鬱だ。準々決勝を乗り切ったとしても、準決勝で疲労が噴出してしまう可能性は否定できない。

 その一方で、2位なら南アフリカ戦と同じカーディフにとどまることができる。準決勝、決勝が行われるロンドンに、カーディフは5つの試合会場でもっとも近い。首位で通過して、最北のグラスゴーへ移動するか。2位を選んでカーディフにステイするか。メダル獲得という目標から逆算して、どちらがいいのかは考えるまでもないだろう。

 なでしこは0対0で引き分けた。他会場の結果を睨みながら、勝点3の獲得を避けた。0対0のまま迎えた後半終了間際は、ボールキープに意識を傾けている。

 試合後には戦い方の是非が問われた。「引き分け狙いを指示した」として、佐々木監督が非難の矢面に立たされた。だが、決勝戦までの6試合を戦う前提で大会を組み立てたとき、指揮官の判断は正しいと僕は思う。そもそも、準々決勝で負けていたら、彼女たちの戦いがここまでクローズアップされことはなかった。“2012年の顔”として、年末年始の番組で取り上げられることはなかっただろう。

 彼女たちがつかんだ銀メダルは、次代の選手たちの刺激剤にもなっている。ロンドン五輪直後に開催されたU-20ワールドカップで、“ヤングなでしこ”は過去最高の3位に輝いた。若年層で実績をあげてきた世代であり、可能性を秘めたチームだったのは間違いない。それに加えて、ロンドン五輪の銀メダル獲得が、チームのモチベーションをさらに高めたのだ。

 プロセスはもちろん重要である。ただ、どんな戦いをしたのかというディティールは、時間とともに風化してしまいがちだ。人々の記憶に長くとどまるのは、やはり結果である。

 もし、なでしこジャパンがロンドン五輪でメダルを逃していたら。女子サッカーの盛り上がりが、沈静化していた可能性は拭えない。競技の将来にまで考えを及ばせた佐々木監督の決断は、やはり正しかったと僕は思う。

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